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十六話。

「……」


 と、私――六出梨は懐かしくも二度と御免だと心底願っていた筈の”飽きてたのに理由があって自分を騙して食べ続けた結果、見るだけで胃もたれする”みたいな状態になりながら私をこの状態に引き戻した奈々氏景隆を黙って見下ろすこと数秒後――、


「はぁ……放して下さる?」


 溜息を零し、零した拍子に顔を上げた奈々氏景隆の視線がゆっくりと落ちては視線が床に落ちた所でゆっくりと離れる――が、たったの二歩のみ。私は『なんでそこで立ち止まる?』と、内心舌打ちをしては今思っている事をそのまま伝える事にした。


「何も言わないのは言ったって無駄だから――無駄だったから」


「……なんだよ、ソレ」


「――……? 私にもわからない」


 奈々氏景隆が零した言葉に私は首を傾げたが直ぐに戻して続きを言う。


「わからないけどもうこれしか君達に対する……感情? は、残ってない」


 あの四人と何年何月に出会ったか? を、思い出せないのと同様にどうしてこうなったかが今はもう思い出せない。


 ――あ、思い出せないんじゃなくて思い出したくないんだこれは。


「まぁあれだ……()()()()()()()。もうこれで良いんじゃない?」


「……待てよ」


 と、私は早急にあの四人から離れようと話を終わらせようとしたが上手くいかない。折角人が気を使って台詞の一部を強調したというのに。


 私はスマホを取り出してとある画面を開きつつ話を終わらせてくれなかった奈々氏景隆に歩み寄ってそれを見せた。


「一回ぐらい私の気持ちや考えを察して欲しいなぁ?」


「っ――!?」


 私のスマホが映しているものを見て奈々氏景隆は絶句する。私が見せたのはそう――例の乱闘騒ぎの真実でありその一部。奈々氏景隆が私をあの場所に呼んだ時のメッセージ画面のスクショだった。


 更に私はこれだけでは足りないと経験? から判断し、スマホを操作して例の乱交写真を映してあげる。


 ”私の事は忘れろ。さもなくば社会的に殺す”――みたいな? でもって経験が生きたのか奈々氏景隆はゆっくりと後退。その時の表情は何かを訴えているご様子だったが私には何も見えなかった事にしてスマホを操作して先ほど会えた八條朔八に電話を掛ける。――が、電話に出てくれなかったのでそのままメッセージを送信するとすぐに島之南帆のスマホが鳴った。


「――……わかった向かう」


 と、数回のやり取りの後、島之南帆は物足りなさそうに私を見つめて退散。私は彼女らがエスカレーターを下っていくのを見送った。


「――! あらあらまあまぁなんでしょう?」


 ふと視線を感じたのでその方向に振り返ってみると淳兄さん達全員が私を見ている。しかも淳兄さんと麻紗姉さんは少し辛そうに私を見ていた。


「梨」


「んっ?」


 歩み寄ってきた淳兄さんは私の名前を呼ぶと返答待たずに私の身体を抱きしめる。


「お願いだ。父さんに似ないでくれ」


「あらあらまあまぁ、似てました?」


「……」


 私の確認に淳兄さんは何も答えない。それは視線を向けた麻紗姉さんも同じだった。


「――気を付けて帰れよ」


 数秒後、私から離れた淳兄さんはそう言って麻紗姉さんを引き連れて駅の方へ歩いて行く。残ったのは私となにやら難しそうな顔をしている二宮棗、そして何故か納得の表情を浮かべる四季先生の三人。


 とりあえず四季先生に淳兄さん達が答えなかった質問を飛ばしてみた。


「似てました?」


「んー何処となく? 奈々氏君に掴まれた時に感じさせた雰囲気が若干似てたかなぁ?」


「おぉー! それはうれしい……でも複雑」


 お父さんに似るのは素直に嬉しい――けど、似てしまうと淳兄さん達が快く思わない。


「はぁー……」


「お! クソデカ溜息。お疲れのご様子でなにより」


「ありがとうございます」


 一難去ってまた一難。お父さんと淳兄さん達の問題に頭を悩ませながらどことなく嬉しそうにしている四季先生に礼を言う。


「――さぁ帰ろうか?」


 四季先生が帰路に就く事を提案。しかし――、

 

「あ、そうだ! ちょっと車で寄って欲しいお店があります」


 と、帰路に就くのを少し先延ばしにして貰うのだった。

あと一話か二話で終わる予定。

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