十一話。
感想ありがとうございます。
悪魔が魅せる天使の微笑みの様な魅力的な笑みを浮かべた二人にユ〇クロ店内連れられてから約一時間後――。
「まさか私の弟が妹にもなる素敵仕様だったとはねェ」
「本当にな。お兄ちゃん歳の離れた妹も欲しかったんだ」
「御褒め頂き感謝の極みです。お兄様。お姉様」
「「最高か」」
「――……いやおかしいでしょうよ!」
と、紺のVネックニットに灰緑のスカートにも見えるキャロットパンツを身に纏う私に大はしゃぎする二人と、持っていた紙袋二つを床に置き少々小声になるが女性の様を作ってメイドが良くするスカートを持ち上げるポーズを取る私。そしてその光景にツッコミを入れる二宮棗という構図が出来上がっていた。
「あらあらまあまぁ……似合ってないと?」
「そんな事はないだろう。その証拠に女性ファッション誌に麻紗緋と一緒に載るんだから」
「載るのッ!?」
「V〇V〇にねェ」
「しかも男の俺でも知ってる超大手!?!?」
「「Oui」」
私と麻紗姉さんは撮影時にしたポーズを決めてリアクションを取る。すると二宮棗は一瞬顔を強張らせては小声で「なにも言えねぇ」と、顔を背ける。そして背けた先にいた淳兄さんに顔を顰めた。
ちなみに服はもう一着買ってあります。そっちはちゃんと男物で床に置いた紙袋の二つの内、その一つがそれになります。もう片方は制服が入ってます。
「……ん? 淳さんその服マネキンの奴では?」
「そうだが?」
「ズルいッ」
と、淳兄さんだけが遊ばれていない事に抗議する二宮棗。しかし――、
「そう言われてもこの服、客のデザイナーが俺を見て構想した奴なんだよ。それで折角だし着てみてその写真を撮って送ったらさ? 泣いて喜んで『次の土曜日にクロドン頼みます!』だとさ。――実際、オーナーから連絡あったし流石にこれにしなきゃ失礼だろ?」
「うっ……」
淳兄さんの台詞にまたもや小声で「なにも言えねぇ!」と、顔を背ける。
「――さて、次はどうします? 私的に圧力鍋が見たいです」
「いいよォむしろ買ったげる」
「そうだな。料理のバリエーションが増えればそれだけ俺達の楽しみも増える。……じゃあその次は棗君か俺だな」
「え!? いや俺は」
「妹よ棗君が次はG〇に行きたいって」
ここにきてまだ遠慮しがちな二宮棗に淳兄さんがユ〇クロを含めた三大庶民の味方であるG〇を強制代理指名。すると二宮棗は一瞬真っ青になっては上の階に指を指し、
「パソコン! パソコンが見たいですっ!!」
と、血相を変えて訴えた。ちなみに洋服三大庶民の味方の最後の一つはし〇むらだと思ってます。〇印良品? あらあらまあまぁあれは100均界隈の高〇屋ですのよ。
「パソコンか。できれば現代高校生の流行を知りたかったが……まぁまだ時間はあるか」
「そうだねェ」
「――ん? それなら私も」
「「梨が今どきの高校生どころじゃないってのは知ってる」」
「あらあらまあまぁ」
酷い――とは思ったが知っていたのでいつもの常套句を言っておく。しかしながら”それを罪だと知っていてもどうしてそれが悪い事なのかわからない無垢な子供”の様に、それがどうしてなのかはわかりませんが。
「じゃあ行こうか。……さて調理道具のお店はと……ふむ四店舗もあるのか。一番近いのは……あれか!」
と、淳兄さんは施設の案内盤を眺めながら私のお目当てのお店を見つけて歩みを進め、私達はその後ろに続いた。
――数時間経過。現在17時を回った時刻。
「楽しかった」
「あぁ楽しめた」
「楽しんだねェ」
「――楽しまれた」
と、私、淳兄さん、麻紗姉さんは大満足な声を上げる。若干最後の一名様は言葉のチョイスが少しおかしかったり、夕陽を仰いで途方に暮れていたりしていたものの、その表情から伝わってくる疲労には確かな満足感があった。
「さてどうします? 行きたかったお店、気になったお店は一通り回りましたしもう帰りますか?」
「そうねェ……疲労感も丁度良いしここでお開きでも構わないわァ」
「(頷く)」
私の提案に麻紗姉さんが同意してそれに二宮棗が静かに頷いて続くと、淳兄さんが徐にスマホを取り出して耳に当てた。
「――はい。では今から1時間後に。――ん! なんです? ――……へぇ……そう……ありがとうございます。――お師匠に迎えに来てもらうよう頼んだ。渋滞がなければ30分で着くってさ」
「……ん? この人数は流石に乗れないのでは? 後ろの荷台私が乗るとしてもロッカーに入れてある荷物も有りますし……」
そうロッカー二つに入っている荷物を思い浮かべると、淳兄さんがその首を横に振った。
「俺と麻紗緋はこのあと19時から用事がある。悪いが荷物だけ持って帰ってくれるか?」
「あらあらまあまぁ了解です」
この後の予定と時間が決まったので私は近くの椅子に腰を掛ける。――と、淳兄さんが気を利かせて全員分の飲み物を買ってはその一つを私に渡す。
「ありがとう――……ん? ぬぅ……」
と、私は受け取ったペットボトルに口を付けた後、前髪が垂れてそれが唇に当たり少しばかりの不快感を覚えた。
「邪魔だなぁ」
「ん? 伸ばしてるんじゃないのか?」
「いえ全然。寧ろ料理する時や掃除をする時に使うワックスが勿体ないと思ってます」
一から料理を作る時やそれなりに気合が必要になる掃除には、視野を確保する為に前髪にワックスを付けて後ろへ適当に流している。ちなみに何故ワックスを使うかと言うと、ヘアゴムで結ぶと毛根が引っ張られてそのうち頭痛を患うからです。ヘアバンドも然り。ヘアピンに関しては取る時に髪の毛が高確率で金具や隙間に挟まったり絡まったりして痛い上にイライラするし、大きいヘアピンは最低でも二つは使うので単純に重いから使いたくない。
「ならなんで切らないんだ?」
「切ると不快で面倒だからです。――ん? 不快で面倒?」
淳兄さんからの質問に即答したものの、すぐに疑問符を浮かべてしまう。
「どうした?」
「あ、いや……どうして不快で面倒なのかがわからなくて」
「んー? 単純に他人に触れられるのが不快で美容院に行くのが面倒だからじゃないのォ?」
「違う」
麻紗姉さんの回答に即答。首を横に振った。
「麻紗姉さん達と外食してた時は毎回美容院に行ってた。なんだったら初めて淳兄さんと話した日にも行った。……あぁでもそれからか? 切るとしても前髪は必ず頬までにして貰ってたのは? ――なんで? あらあらまあまぁなんだっけ?」
原因がわからない。本当にわからなかった。わからないのにどうしても髪の毛を切るという行為が酷く不快で面倒なのです。
『似合ってない似合ってない似合ってないッ――!?』
「――ぁ」
姿形すら記憶にない聞き覚えのある幼い女子の声が耳と脳を木霊し、一瞬だったがチクリと針で刺されたような不快感を脳に直接感じてしまう。私は油断してか細いながらも声が漏らしてしまった。
「梨? ――梨ッ!?」
「「!?」」
「えっ!? な、なに?」
と、先ほどまでの楽しい雰囲気ではなく鬼気迫るといった雰囲気で私に詰め寄った淳兄さんに驚く。その後ろにいた麻紗姉さんと二宮棗もまた淳兄さんと同じような雰囲気で一歩私に近づいていた。
「何じゃない!? 辛いのか! ずっと辛いのを我慢してたのか!?」
「? な、なにがです? ――あ」
条件反射で持ち上げてしまったペットボトルを掴む手の――その親指の付け根付近が不自然に濡れていた事、そしてペットボトルに映し出されていたものに驚く。
「あらあらまあまぁ一滴の涙が……何故?」
片目のみで一滴だけだったがどうやら泣いてしまったらしい。
辛い……訳では無い。至って平常。では悲しい? ……何が? それなら目にゴミか小さな虫が入った? これなら片目のみの理由に納得できる……が、それならこの涙の量はおかしいし、そもそも異物が目に入った反応としては足りなすぎる。欠伸は眠くもないので論外だ。
とりあえず大丈夫な事を伝えようと涙を拭きとる。
「大丈夫。――まぁでも信じられないなら薬と……あ、あのヤブ医者のいるクリニックに行きますけど?」
涙を拭きとって平気そうな素振りを見せたのだが効果は薄く、私は仕方なく淳兄さんが持ってきている薬と、嫌で嫌で――嫌で! 仕方がない例のヤブ医者がいるクリニックを要望した。
「――本当に大丈夫か? 嘘をついてもこの場の全員を傷つけるだけだぞ?」
と、一人先に落ち着きを見せた淳兄さんが最後の確認として今のを言い、私は「この身体に関してなら絶対に二人に嘘は言いません」と、後ろの麻紗姉さんにも聞こえる声で宣言する。
「わかった。……びっくりさせるなよ本当に」
「あらあらまあまぁ、ごめんなさい。――ごめんなさい」
隣に座った淳兄さんに謝罪をし、安堵の表情を浮かべながら私達の前まで近づいた麻紗姉さんと二宮棗にも謝罪を入れる。
「謝罪は要らないから今の自分の言葉を最後まで守る事! 分かったァ?」
「Oui」
「使い勝手が良くてもそこは日本語で言いなさィ」
麻紗姉さんはそう言って優しく微笑みながら私の頭を数回撫でた。
「――髪、切ろう」
「え?」
突然、二宮棗が私の髪を切る事を提案した。
正直どうしてこうなったかわからない。でもなんとしてもGW中に一章を終わらせるんだー。




