教習所の指導員がとんでもないツンデレだった!
自動車学校だから、スクールラブでもいいよね?
「グズでノロマなアンタの為に、私が教えてあげるんだから、感謝しなさいよ!?」
指導員にあるまじき発言だが、可愛いから良しとしよう。
そう思い、僕はシートベルトを閉めた。
「さっさとキーを回しなさい! ハンコ押さないわよ!?」
「は、はい!」
慌ててエンジンをかける。
アクセルをふかしすぎてグンと車が急発進した。
「バッカじゃないの!? もし私とアンタの子どもが後ろで寝ていたら、びっくりして起きちゃうわよ!?」
よく分からない例えで怒られたが、悪い気はしない。
シートベルトが食い込む胸元を見て、僕は頷いた。
「減点1。よそ見はしない」
「……」
そこは普通に指摘するんだ……。
「シミュレーションでやった通りに、安全に行くのよ」
「はい」
車が教習所のカーブを緩やかに回る。
「お爺さんが飛び出してきたり、エイリアンが侵略してきたり、お爺さんがマシンガンでこっち狙ってたり。力作だったでしょ!?」
「あの不可解なシミュレーションは、先生の作品だったんですね?」
マンホールの蓋が開いて外人部隊に取り囲まれるシミュレーションとか世界初では?
一般車両でどうしろと?
「踏切よ。早く止まりなさいなクズゴミウンコ星人」
普通に罵倒がキツい。
窓際に頬杖をつく先生を見て、僕は少しゾクゾクとした。エムだ。
「ここは開かずの踏切。1時間は開かないわ」
「あの……授業が終わってしまいます」
「バッカね。それくらい知ってるわ。ジョークよジョーク! 私の旦那になるんなら、それくらい知っときなさいよ!」
旦那になった覚えはないけれど、正直なったら毎日が辛いだろう。
シートベルトが食い込んだ胸元を見て、迷う。
「減点1。よそ見はしない」
「すみません」
踏切が開き、車は坂道に差し掛かる。
「はい止まりなさいそこのアンポンタン茄子小僧野郎」
もう罵倒が訳分からない。
「坂道発進。しくじったらハンコを頭に突き刺すわよ!?」
シミュレーションでやった通り、落ち着いてサイドレバーを手にする。
「探偵が犯人を告げる直前に消える画面。あれ中々集中力切れて良かったでしょ?」
あれも先生の力作ですか。
二度と作らないでください。
サイドレバーを下ろしながら、アクセルを踏む。
ふすこん。と、車は気のない音を立ててエンストした。
「なんてざま! だからアンタはナメクジ三振王なのよ!」
返す言葉もない。
「もう一度! キーを回して! その前にサイドレバーを引く!!」
「は、はい」
キーを回し、サイドレバーを握る手に力が入る。
「私がサポートするから安心なさい」
サイドレバーを握る僕の手の上に、先生の手が重ねられた。
「行きなさいな、ほら」
「はい」
車はすんなりと坂道を発進し、スタート地点に戻った。
「お疲れさま。まあまあ良かったわよ」
「ありがとうございます」
「ほら、ハンコ押したげるから、紙を出しなさいな」
僕は押印用紙をそっと出した。
学科の大半を終え、残るは実技が殆ど。早く一般道を走るのが待ち遠しい。
「これじゃないわ」
「えっ?」
「二人の婚姻届よ」
ダッシュボードから婚姻届を取り出した先生は、ハンコを押して僕にそれを押し付けた。
既に名前は書かれており、後は僕のハンコだけだ。
「先生……」
「じゃあ、また後でね。変態君」
「本当のハンコを下さい」
僕は教習所の押印用紙を差し出したが、先生は困ったように口を曲げた。
「それは本当の先生に貰ってよ」
先生は部外者だった。
僕は先生との婚約を決めた。
サイドレバーのくだりをやりたかったから、マニュアルでもいいよね?