スタンダードなドラゴンと女子生徒
試験に拘わるすべての人間に聞こえたであろう咆哮と共に、ドラゴンが森林へと降りてくる。
途端に枝葉が折れ、木々が薙ぎ倒される破壊音が轟き、魔物たちが騒ぎ始める。
一瞬にしてそこかしこから音が響き、それに乗って人の悲鳴すら聞こえてきた。
「グォォオオォオオォオオオオッ!」
そして、俺の目の前にもドラゴンが降ってくる。
両脚から伸びた鋭い鉤爪を突き出し、こちらを引き裂こうと落ちてきた。
それを受けて直ぐさまその場から飛び退くと、その握力によって地面が抉り取られる。
木の根が這う頑丈な土壌がまるで紙粘土みたいだ。
「派手なご登場だこと」
刀を構え、地上に降りたドラゴンと対峙した。
見たところこれと言って特徴のない、スタンダードなドラゴンに見える。
特異な能力を持たないが故に、強力な個体に従う性質を持っていると親父は言っていた。
所謂、コバンザメだ。
ほかの魔物と同様に、喰っても能力は得られなさそうだ。
「グォオオォオオオオオオッ!」
威嚇するように吼え、その羽で浮かび上がり、こちらに向かって滑空する。
真正面から突っ込んでくるドラゴンを呼び越えるようにして回避。
空中にて刀身に魔力を流し、真下を通り過ぎようとしているドラゴンの背に飛ぶ斬撃――飛剣を叩き込む。
「まず一体」
背を割って撃墜し、ドラゴンを一体仕留める。
同時に視界の端に映った別のドラゴンを視認し、そちらに向けて左腕を伸ばした。
氷龍のスキルを発動し、冷気が吹雪きのように吹きすさぶ。
そこへ上空から飛び込んできたドラゴンは瞬く間に凍結し、近くの木々に激突して粉々に砕け散る。
「二体」
地に足を付けて、直ぐさま符術を展開する。
背後に壁のように貼り付けて着火。
燃え上がる狐火がこの身に迫っていた三体目を弾き返した。
「グォオオォォオオオォォオオッ!?」
顔面から突っ込んで焼かれたドラゴンが大きく仰け反って怯む。
その隙を見逃さず、霊符の壁を分解して火槍に組み替え、その胴体に風穴を空ける。
「三体っと」
瞬く間に三体のドラゴンを返り討ちにし、一息をつく。
空にはまだまだドラゴンが舞っているが、俺に目を付けたのは三体だけだったようだ。
まぁ、それも今のところではあるけれど。
「こいつらの逆鱗でも合格になる……か?」
とりあえず仕留めたドラゴンから逆鱗を回収し、残りをスキルで捕食する。
やはり能力は得られないようで、栄養になったり魔力に変換されたりするだけだった。
「まぁ、でも、中止かな。この分だと」
暢気に逆鱗を回収したけれど、とても試験を続けられるような状態じゃない。
魔法が炸裂したような音も多方面から聞こえてくる。
「とりあえず馬車まで戻るか」
森を抜けてそこまで行けば試験官たちがいる。
もしかしたら学生たちを助けに森に入っているかも知れない。
それでも数人ほどは馬車を――馬を守るために残っているはず。
まず合流して、指示を仰ごう。
「――ん?」
踵を返して来た道を戻っていると、視線の先にドラゴンの翼が見えた。
その下には人影も見える。
急ぎ足になって近づくと、ほかにもドラゴンがいることがわかった。
人が複数体に襲われている。
「見捨てる訳にもいかないな」
刀身に魔力を流して振るう。
飛剣が枝葉を断って馳せ、ドラゴンの一体を撃墜する。
それと同時に駆け抜けた俺は、人影のもとへと駆けつけた。
そして、その誰かと目が合う。
澄んだ色の瞳が、すこし見開かれていた。
「――」
だが、それも一瞬のこと。
お互いに今現在において為すべきことを為すために動く。
「グォオオオォオオオオオッ!」
この場にいるドラゴンはあと二体。
俺は飛翔しているドラゴンに目を付け、近くの樹木へと駆けた。
木の幹を蹴って跳び上がり、別の樹木を足場にまた跳び上がる。
繰り返すほどに高度が上がり、瞬く間にドラゴンと同じ目線に到達した。
「グォオオォオオオォオオオオオッ!」
至近距離にまで迫った俺に対して、火炎のブレスが吐かれる。
それを左腕に纏った冷気で掻き消し、その顔面へと手を伸ばした。
掴み、冷気を流し、瞬間的に凍結させる。
握り締めれば全身に亀裂が走り、瓦礫のように割れて地に落ちた。
「よっと。あと一体は」
割れたドラゴンと共に着地し、即座にもう一体のほうへと視線を向ける。
「あぁ、終わってたか」
最後の一体はすでに倒されていた。
全身が焼き焦げていて、力なく地に伏している。
なかなかどうして、素早い討伐だった。
「無事か?」
俺はそう声を掛け。
「うん。なんとか」
彼女はそう返事をした。
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