表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/22

ドラゴンの群れと学生


 馬車に揺られて街道を行く。

 座席には俺と同世代くらいの男女が敷き詰められている。

 彼らの顔を一通り眺めて、あの少年らしき人物が見当たらないことに溜息をつく。

 吐いた息が風に乗って、大自然に溶けていった。


「試験か」


 窓辺に肘をついて景色を眺め、今朝のことを思い出す。


「これから龍狩りの試験を受けてもらう。少々、強引に話を進めたツケだ。ほかの者にキミの実力を示す必要がある」


 本来、龍狩りになるには、この試験に合格しなければならない。

 試験自体も誰でも受けられるようなものではなく、選び抜かれたエリートだけが挑戦できるらしい。

 俺は所詮、余所者だ。試験を受けられるようになるまで半年は掛かる。

 その期間を省くために部隊長は少々、強引に話を進めてくれたようだった。

 だから、ほかの者に証明しなければならない。

 自分の価値を。


「あの森がそうか」


 窓から見える景観に鬱蒼とした森林が顔を見せる。

 あの森林には比較的、弱い部類のドラゴンが多数棲んでいる。

 弱い個体が多い代わりに繁殖能力が高く、近年数が多くなりすぎているのだとか。

 放っておくと森林から人里までやってくる怖れがある。

 ゆえに龍狩りの試験を利用して定期的に数を減らしているらしい。


「――到着だ」


 馬の手綱を引いていた御者がそう告げ、ぞろぞろと馬車を降りる。

 最後尾で外に足を下ろすと、後続の馬車からも人が降りてきた。

 その誰もが学生服を身に纏っている。

 数種類の学校から選ばれた優等生諸君と言ったところか。


「おい、あれ見ろよ」

「どこのどいつだ? あれ」

「なんで私服……知ってるか?」

「いや、見たことないな」


 周りが学生服だらけとなれば、一人だけ私服同然の俺が目立つのは道理だ。

 馬車の中でもそうだったけれど、現地に着いても奇異の目に晒された。


「あいつ、誰と組むんだろ?」

「さぁ、知り合いがいるようには見えないけど」

「もしかして一人で、とか」

「まさか、そんな無謀な奴いないだろ」


 嫌でも聞こえてくる彼らの話によれば、基本的に徒党を組んで挑むものらしい。

 そう言えば部隊長も部下を従えていたっけ。

 まぁ、知り合いもいないことだし、こればかりはどうしようもない。


「注目!」


 試験官と思しき人物が声を張り上げ、学生達の注意を引く。

 それから改めて試験内容の説明が為された。

 掻い摘まんで言えば、ドラゴンの逆鱗を見事に持ち帰ることが出来れば試験は合格だ。

 制限時間は日没まで、現在の太陽は空の天辺近くにあることから、六時間から七時間程度の時間が設けられている。


「では、諸君等の武運を祈る。順次、森へと入るように」


 こうして龍狩りの試験が始まった。


§


 斬龍のスキルを使い、衣服が和装へと変貌する。

 握り締めた刀を振るい、向かってくる四足獣型の魔物を斬り裂いた。

 同時に、冷気を纏う左腕で地面に触れ、冷気を這わせて氷柱つららを突き上げる。

 それによって周囲にいたすべての魔物の胴体が貫かれた。


「意外と便利に使えるな」


 この環境だと狐龍の狐火は使いづらい。

 その点、氷龍の冷気なら森林火災に繋がる心配はゼロだ。

 試験の前に氷龍を喰らえたのが幸運だったな。


「でも、魔物をいくら倒してもな」


 赤く染まった氷柱に目をやり、魔物の亡骸に手を伸ばす。

 スキルで捕食すると氷柱を掻き消して先へと進む。


「数が多いって話だったけど」


 出会うのは魔物ばかりで、肝心なドラゴンが見当たらない。

 もう数時間ほど経っていて、森のかなり奥まで入り込んだはずだけれど。

 ここまで出会わないのは、すこし可笑しいな。

 そう思いつつ首を傾げていると、ふと声がした。


「これ……」


 人ではなくドラゴンの声だ。

 森の中からではなく、上空の彼方から聞こえてくる。

 それも無数に連なっていた。


「まさか」


 ドラゴンが姿を見せないのは、上空から脅威が迫っていると悟っていたから。

 見つからないように姿を隠していたから。


「あぁ、不味いな」


 その推測は的中し、地面を這う大きな影が通り過ぎていく。

 それは次第に数を増し、ついには空のすべてを覆い隠す。


「グォオォオオオオォオオオォオオオッ!」


 そして、連なる咆哮が森林のすべてに響き渡った。

ブックマークと評価をしていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ