ドラゴンの群れと学生
馬車に揺られて街道を行く。
座席には俺と同世代くらいの男女が敷き詰められている。
彼らの顔を一通り眺めて、あの少年らしき人物が見当たらないことに溜息をつく。
吐いた息が風に乗って、大自然に溶けていった。
「試験か」
窓辺に肘をついて景色を眺め、今朝のことを思い出す。
「これから龍狩りの試験を受けてもらう。少々、強引に話を進めたツケだ。ほかの者にキミの実力を示す必要がある」
本来、龍狩りになるには、この試験に合格しなければならない。
試験自体も誰でも受けられるようなものではなく、選び抜かれたエリートだけが挑戦できるらしい。
俺は所詮、余所者だ。試験を受けられるようになるまで半年は掛かる。
その期間を省くために部隊長は少々、強引に話を進めてくれたようだった。
だから、ほかの者に証明しなければならない。
自分の価値を。
「あの森がそうか」
窓から見える景観に鬱蒼とした森林が顔を見せる。
あの森林には比較的、弱い部類のドラゴンが多数棲んでいる。
弱い個体が多い代わりに繁殖能力が高く、近年数が多くなりすぎているのだとか。
放っておくと森林から人里までやってくる怖れがある。
ゆえに龍狩りの試験を利用して定期的に数を減らしているらしい。
「――到着だ」
馬の手綱を引いていた御者がそう告げ、ぞろぞろと馬車を降りる。
最後尾で外に足を下ろすと、後続の馬車からも人が降りてきた。
その誰もが学生服を身に纏っている。
数種類の学校から選ばれた優等生諸君と言ったところか。
「おい、あれ見ろよ」
「どこのどいつだ? あれ」
「なんで私服……知ってるか?」
「いや、見たことないな」
周りが学生服だらけとなれば、一人だけ私服同然の俺が目立つのは道理だ。
馬車の中でもそうだったけれど、現地に着いても奇異の目に晒された。
「あいつ、誰と組むんだろ?」
「さぁ、知り合いがいるようには見えないけど」
「もしかして一人で、とか」
「まさか、そんな無謀な奴いないだろ」
嫌でも聞こえてくる彼らの話によれば、基本的に徒党を組んで挑むものらしい。
そう言えば部隊長も部下を従えていたっけ。
まぁ、知り合いもいないことだし、こればかりはどうしようもない。
「注目!」
試験官と思しき人物が声を張り上げ、学生達の注意を引く。
それから改めて試験内容の説明が為された。
掻い摘まんで言えば、ドラゴンの逆鱗を見事に持ち帰ることが出来れば試験は合格だ。
制限時間は日没まで、現在の太陽は空の天辺近くにあることから、六時間から七時間程度の時間が設けられている。
「では、諸君等の武運を祈る。順次、森へと入るように」
こうして龍狩りの試験が始まった。
§
斬龍のスキルを使い、衣服が和装へと変貌する。
握り締めた刀を振るい、向かってくる四足獣型の魔物を斬り裂いた。
同時に、冷気を纏う左腕で地面に触れ、冷気を這わせて氷柱を突き上げる。
それによって周囲にいたすべての魔物の胴体が貫かれた。
「意外と便利に使えるな」
この環境だと狐龍の狐火は使いづらい。
その点、氷龍の冷気なら森林火災に繋がる心配はゼロだ。
試験の前に氷龍を喰らえたのが幸運だったな。
「でも、魔物をいくら倒してもな」
赤く染まった氷柱に目をやり、魔物の亡骸に手を伸ばす。
スキルで捕食すると氷柱を掻き消して先へと進む。
「数が多いって話だったけど」
出会うのは魔物ばかりで、肝心なドラゴンが見当たらない。
もう数時間ほど経っていて、森のかなり奥まで入り込んだはずだけれど。
ここまで出会わないのは、すこし可笑しいな。
そう思いつつ首を傾げていると、ふと声がした。
「これ……」
人ではなくドラゴンの声だ。
森の中からではなく、上空の彼方から聞こえてくる。
それも無数に連なっていた。
「まさか」
ドラゴンが姿を見せないのは、上空から脅威が迫っていると悟っていたから。
見つからないように姿を隠していたから。
「あぁ、不味いな」
その推測は的中し、地面を這う大きな影が通り過ぎていく。
それは次第に数を増し、ついには空のすべてを覆い隠す。
「グォオォオオオオォオオオォオオオッ!」
そして、連なる咆哮が森林のすべてに響き渡った。
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