城郭都市と懐かしい記憶
「申し訳ありませんでしたッ」
龍狩りたちが揃って頭を下げる。
「あぁ、許した」
そう返事をして、この話はそこでお終い。
「感謝する」
戻って来た小龍たちの一体がそう言って普段の生活に戻っていった。
「少年、これからどうする?」
「とりあえず人が多いところに行きたい。人を捜しているんだ」
「そうか、ならば我らと共にくるといい。街まで案内しよう」
「助かるよ」
話は纏まった。
「よし、街に戻ろう」
「お客様を街までエスコートだ」
龍狩りたちと共に森を抜けて丘陵を歩く。
しばらくすると街の全貌が見えてきた。
ドラゴンや魔物の襲撃に備えてか、街の周囲は背の高い防壁に囲まれている。
遠目に小さく城門と思しきものも確認できた。
「なぁ、ドラゴンに育てられたってマジなのか?」
側にいた龍狩りの一人に、そう尋ねられる。
「こう言っちゃなんだが、ドラゴンに人間の子育てができるとは思えない」
「できたから、俺がここにいるんだ。見ろ、立派な人間になっただろ?」
「ははー、確かに」
話を聞いていたほかの龍狩りたちも小さく笑った。
「ほかに質問は?」
「なら聞くが、氷龍の死体をどこに隠したんだ?」
あぁ、それか。
「掻き消えたように見えたけど」
「それなら喰ったよ」
「喰った?」
「捕食スキルでな。これが証拠だ」
氷龍のスキルを使い、左腕に冷気を纏う。
それを見た龍狩りたちは目を見開いた。
「じゃあ……なにか? 喰ったドラゴンの力を身につけてるってことか?」
「そういうこと」
「……道理で単独で討伐できるわけだ」
その後、また幾つかの質問に答えているうちに城郭都市へと辿り着く。
時刻は夕刻。
開いた城門から中に入ると、俺の根底にある古い記憶が呼び覚まされた。
外の大自然とは相反する文明的な都市。
アスファルトの地面に街路樹が生え、背の高いビルが建ち並んでいる。
道路には自動車が走り、行き交う人々は平和な日々を謳歌していた。
鎧や剣を装備した龍狩りたちが、酷く場違いで浮いているように思える。
「どうだ? 十年ぶりに見た文明は」
「懐かしすぎて目移りしてる」
キョロキョロと街の様子を目にしつつ、龍狩りたちに連れられて歩いた。
「ひとまず龍狩りの本部まで案内しよう。今日はそこで寝泊まりするといい。食事も提供しよう」
「ありがたい、至れり尽くせりだな」
街まで来たはいいが、今の俺は一文無しだからな。
「気をつけろ。勧誘されるぞ」
「勧誘って龍狩りにか?」
「まぁ、お前みたいな人材を放ってはおかないだろうさ」
龍狩りか。
「なんならこの場でスカウトしたっていい。キミにはそれだけの価値がある」
とても買ってくれているみたいだった。
「あそこが本部だ」
見えてきた建造物はそれはそれは立派なものだった。
ほかの建築物とは明らかに違い、敷地面積も広く取られている。
どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせる龍狩り本部へと足を踏み入れた。
「おー」
自動ドアを潜ると広いエントランスに出る。
清潔感のある白を基調としたその場所では、装備品を身につけた龍狩りが何人も行き交っていた。
「本日はこれにて解散だ。報告は私がしておく」
そこで部下達を帰らせた部隊長は、俺を連れてエントランスを横断する。
そして、とある一室に通された。
「ここを自由に使ってくれ。あとで食事を持ってこさせる」
「あぁ、ありがとう。助かる」
「明日の朝、また会おう」
そう言って部隊長はこの部屋をあとにした。
「さーて、と」
改めて部屋を見渡してみる。
造りは簡素だが清潔なベッドに、白のテーブルと椅子。
円形の証明に部屋の隅には観葉植物が置かれている。
壁に目を移すとトイレとその隣にシャワールームを発見した。
「まずは風呂だな」
真っ直ぐにシャワールームへと向かう。
「熱いシャワーなんて十年ぶりだな」
衣服を脱ぐと、スキルが解除されて元の皮服へと戻った。
それを適当に脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
久々のシャワーは控えめに言って最高だった。
§
「受けるよ、そのスカウト」
朝が来て、部屋を訪ねてきた部隊長にそう告げた。
龍狩りとして有名になれば、あの少年が自分を見つけてくれるかも知れない。
一晩考えてみて辿り着いた結論がそれだった。
それに加えて手に職も付けられる。
一石二鳥だ。
「そう言うと思っていた」
部隊長はテーブルの上にペンと紙を置く。
「面倒な項目はすべて私が描いておいた。あとは名前を書くだけだ」
「印鑑は?」
「それは随分と前に廃止された」
「なるほど」
紙に綴られた文字に一通り目を通し、ペンを取って名前を書く。
それが終わると部隊長に手渡す。
「ようこそ、龍狩りへ」
受け取られ、こうして俺は龍狩りとなった。
ブックマークと評価をしていただけると幸いです。