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龍狩りと小龍


 小龍たちに背を向けて人間たちと向かい合う。

 俺の登場に人間たちは少なからず動揺した。


「な、なんだキミは。危ないからそこを退きなさい」

「危なくなんてない。こいつらは人畜無害だ。こっちから手を出さなければな」


 同種の小龍が過去にも渓谷に何度か迷い込んできたから知っている。

 彼らは争いを好まない穏やかな草食龍だ。

 実際に背中を向けた俺を襲おうとはしてこない。


「あんたら龍狩りだろ?」


 地球が天変地異を起こした直後の混迷期、人類の存亡を賭けてドラゴンを狩った者たち。

 その後継組織の総称が龍狩りであると、親父は言っていた。


「相手をするのは人に仇なすようなドラゴンだけだって聞いていたんだけどな」


 人に仇なすドラゴンを狩り、人類の守護を担う誇り高き者。

 親父も何度か龍狩りと戦ったことがあったと聞いている。

 なのに、実際は人畜無害な小龍に剣を向けていた。


「たしかにその通りだ、少年」


 先ほど発言した龍狩りとはまた別の人物が俺の前に出てきた。

 貫禄のある壮年の男性で、首に大きな傷跡が走っている。

 他の龍狩りよりも上等な装備をしていることから、彼がこの部隊の長だろう。


「しかし、時にはそれでも剣を向けねばならないこともある。今回がそれだ」


 そう言って彼は背後の部下たち、その向こう側を指差した。


「地形の関係でここからは見えないが、すこし移動すれば目視できる位置に城郭都市がある。守るべき我らが故郷だ。小龍たちはそこを目指すように移動している。人畜無害とはいえ、ドラゴンの接近を許すわけにはいかない」


 彼らの目的は城郭都市にとっての脅威を排除すること。

 追い払うにしても、殺すにしても、得物を抜かないことには始まらないか。


「理解したか?」

「あぁ、つまり小龍の進路を変えてやればいいんだな?」


 今度は彼らに背を向けて小龍たちと向かい合う。

 地を這う彼らに会わせて片膝をつき視線を合わせる。


「な、なにをし――」


 部隊長に制されたのか、それ以上の言葉は飛んでこなかった。


「この先は危険だ。引き返したほうがいい」


 小龍たちにそう語りかける。


「引き返すほうが危険だ」

「我らは逃げてきた」

「故郷を失った」


 口々に小龍たちは語る。


「いったい何から逃げてきた?」

「同胞だ」


 ドラゴンに住処を占領されたのか。

 住処を追われて逃げ延び、身を寄せる場所を探して彷徨っている。

 追い返しても戻ってくるに違いないし、二度目は確実に龍狩りに狩られてしまう。

 街を迂回させるか? いや、それよりも手っ取り早い方法がある。


「なるほど」


 立ち上がって、龍狩りたちに向き直る。


「小龍たちの住処にドラゴンが現れたらしい。家を追われてここまで逃げて来たそうだ」

「……ドラゴンの言葉がわかるのか?」

「あぁ」


 そう返事をすると龍狩りの部下たちが一斉に笑い始める。


「こいつは傑作だ。なんと! ドラゴンと話せるってよ!」

「そいつはいい! 俺も昔からドラゴンと友達になりたかったんだ!」

「今度、背中に乗せてくれるよう頼んでくれよ! おっと、間違えて喰わないでくれよ?」


 まぁ、こういう反応が返ってくるのは想定済みだ。

 あまり良い気分はしないけれど。

 ただ部隊長の彼だけが真剣な表情で俺を見据えていた。


「みんな、聞いてくれ」


 今一度、小龍たちへと振り返る。


「住処まで連れて行ってくれ、そうしてくれれば俺がドラゴンをどうにかする」


 そう言うと、また背後で笑い声が上がった。

 うんざりしつつも小龍たちの目を見る。


「人よ、その内に同胞を宿しているな」

「あぁ」


 同じ龍種として感じ取るものがあるのだろう。


「いいだろう」


 小龍の一匹が高く鳴き、それを合図に群れが移動し始める。

 すると、笑い声がぴたりと止んだ。

 素直に引き返していく小龍たちに驚いているようだった。


「信じらんねぇ。どんな手品だ?」

「なにかの魔法かも」

「まさか本当に会話ができるとか?」


 一気に口数が増えた。


「ドラゴンがいるというのは確かか?」

「あぁ、今から狩りにいく」


 部隊長にそう告げて、小龍たちの後を追った。


「ドラゴンがこの近くにいるなら、それは我々にとっての脅威だ」

「まさか、信じるんですか?」

「今のを見ただろう。あの少年は武器を使わず言葉だけで小龍を帰らせた。この先を確かめる価値はある」


 どうやら龍狩りも後を付いてくるようだった。

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