治癒と混乱
街に到着して馬車を降りると、ほのかに焦げ付いたような臭いがした。
街並みを眺めると、黒い煙が薄く天に伸びているのがわかる。
どうやらすでにドラゴンの襲撃があったみたいだ。
「こっちだ」
地元の龍狩りに案内されて襲撃現場へと向かうと酷い有様が視界に広がった。
焼け落ちた民家、砕かれた道路、大量の負傷者と、隠されたように横たわる死体。
医療テントの下では、今も懸命に救命処置が行われている。
「ちょっと行ってくる」
「うん。話は聞いておくから」
その場を明希に任せて、俺は医療テントへと向かった。
治龍のスキルを発動して白衣を身に纏うと救命士に声を掛ける。
「一番、助かりそうにない人は?」
救命士の一人がちらりとこちらを見る。
「私の右隣にいるよ。もう手遅れさ」
その患者は全身に大火傷を負った男性だった。
浅く呼吸はしているが、この場では手の施しようがない。
病院なら何か方法があるかも知れないが、辿り着くまえに命尽きるだろう。
助からないとわかり切った者より、助かる可能性のある患者を優先する。
それは当然の判断で、彼が病院に向かうことは恐らくない。
「まだ希望はある」
彼の側に立ち、治龍のスキルを発動する。
治癒と浄化の能力が混じる優しい光が彼を包み、焼けた肉体を再生させていく。
焼失した皮膚を治し、焼けた肺や喉を癒やす。
煙もかなり吸っているだろうが、そこまで癒やすとなると時間が掛かりすぎる。
とりあえず命を繋ぎ止められる状態まで持っていき、あとは本職に任せよう。
完治は考えず、ある程度治したら次の患者へと向かわないと。
「驚いた……あなた、いったい」
「龍狩りだよ。それより」
「あぁ、そうだったね」
彼女は自身の患者に専念しつつ、俺に指示を出す。
俺はその通りに動き、重傷者に治龍のスキルを施した。
ドラゴンのスキルを持ってしても、助けられなかった患者もいる。
すでに手遅れだった人もいた。
それでも一人でも多くの命を救うべく駆け回った。
治龍が最期まで己の存在理由をまっとうしたように。
「ふぅ……」
一通りの重傷者を看て回り、治龍のスキルを施し、一息をつく。
治癒が間に合った者はみんな、救急車で病院へと運ばれていった。
俺に出来るのはここまでだ。
「助かったよ、龍狩りさん。あなた、凄いね」
「いやいや、本職の人には叶わないよ」
あんな過酷な現場を、ドラゴンスキルも無しに駆け回っている。
俺にはとても真似できない。
「来るのがもっと早ければな」
俺達が到着したのはすべてが終わったあとだった。
携帯端末を見てみると、今になって襲撃の情報が入ってきている。
相次ぐドラゴンの襲撃でかなり混乱しているみたいだ。
「過ぎたことはどうしようもないよ。どの道、私たちは龍狩りさんに頼らないといけないんだ。しっかりしておくれ」
「あぁ、そうだな」
助からなかった患者がどこかへと運ばれていく。
それをすこし目で追い、それから医療テントを後にした。
§
現場に戻ると、明希の側にもう一人龍狩りが増えていた。
無精髭を生やした壮年の男性だ。
相当に鍛えられているのか、大柄で背が高い。
装備を見る限り、斑目部隊長と同じ位の立場にいる人間のようだった。
「おぉ、来たか」
「遅くなってすまない」
「いや、謝るようなことじゃない。こんな状況だしようがないさ」
そう言って彼は城壁を見上げた。
その壁面にはいくつもの焦げ痕が点在し、亀裂が走っている。
それを見るだけでも、襲撃の熾烈さが窺えた。
「その分、次は期待させてもらう。龍剣の名に相応しい活躍を見せてくれ」
「あぁ、わかった」
今回は間に合わなかったが、次はそうはいかない。
「さっき自己紹介したばかりだが、一応もう一回言っておく。俺は乱童だ」
「あぁ、こっちは天喰空人。よろしく頼む」
握手を交わし、俺達は次の襲撃に備えることにした。
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