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逃亡と襲撃


 龍狩り本部の一角にある会議室に、俺は呼び出されていた。


「キミたちが捕らえた龍人が情報を吐いた」


 待っていたのは以前と同じスーツの男だった。


「龍人の目的はこの城郭都市のインフラ、つまり乗っ取りだ」


 龍人たちは人間の文化を欲しがっている。


「我々が想定していたものよりも遥かに大事だ。そこで天喰くん。キミに一つ問いたい」


 神妙な顔つきで、問い詰めるように彼は問う。


「キミは人間とドラゴン、どちらの側だ?」


 ここに来て、その質問か。

 ドラゴンに育てられ、ドラゴンを喰らうスキルを持つ。

 どちら側についても可笑しくないと看做されているようだ。


「どっちとも言えない」


 それが正直な答えだった。


「両親は人間で、育ての親はドラゴンだ。どちらか一つは選べない。でも、基本的には人間の側に立つよ。人がドラゴンに対して正しい対応をしているうちはな」


 治龍の最期を思い浮かべながら、俺はそう告げた。


「……それが答えで、間違いないか?」

「あぁ」


 そう答えると、彼は短く息を吐いた。


「実は昨夜、キミたちが捕らえた龍人が消えた。情報を吐いた、すぐあとのことだった」

「はぁっ!?」


 逃げたのか。


「キミたちが依頼を終えて戻って来たのは昨夜遅くで、その時にはすでにもぬけの殻だった。ゆえに天喰くん、キミの関与は否定されていたも同然だが、確かめるべきだと言う意見が多くてね」

「……なるほど」


 街の乗っ取りを企んでいる龍人が逃げ出したとなれば穏やかではいられない。

 お偉いさん方は相当焦っていて疑心暗鬼になっていることだろう。

 捕らえていた龍人が逃げたのなら、手引きした者がいるか、外部からこっそり龍人が入ってきたことになる。

 それにまるで気がつかなかったとなれば、誰にでも疑いの目を向けたくなる。

 この場に俺だけが呼ばれたのも、そういうことだろう。


「本心が聞けてよかった。キミが敵に回らないように我々も努力しよう」

「そうしてくれると俺も安心できる」


 治龍の時のようなことは、もう二度と御免だ。


「最期に長年ドラゴンと過ごしたキミの意見を聞きたい。逃げた龍人はこのあとどうすると思う?」

「それは……」


 思考を巡らせて、結論を告げる。


「情報を吐かせるために何をしたかによって変わる」

「……そうだな。その通りだ」


 そうして俺は会議室をあとにした。


§


 案の定というべきか、龍人が逃亡してから数日後には異変が起こった。

 始めは巡回警備中の龍狩りがドラゴンの群れに襲われたこと。

 それを皮切りに各地でドラゴン被害の報告が頻繁に上がるようになる。

 普段、ドラゴンが近寄らないような地域にまで被害が及んでいた。

 事態を重くみた本部は、終息させるために龍狩りの派遣を決定する。

 それは俺達も例外ではなく、明希と一緒にとある街へと向かうことになった。


「被害のほとんどは東側に固まってるな」


 馬車に揺られながら、資料の地図を眺めて呟く。


「うん。ドラゴンの群れも東から来て東に帰っていくみたい」

「なら、俺達の派遣先が最前線になるかもな」


 俺達の派遣先は最東端に位置する城郭都市だ。

 それより先は地形や生態系の問題で開拓がまったく進んでいない。

 人類未到の地が広がっている。


「龍人の目的が街の乗っ取りだから、派遣先が落とされると拠点にされるな」

「それを足掛かりに一つずつ街を攻め落とす」

「あぁ、街には食糧がたくさんだ。あっと言う間に数が増える」


 派遣先の街でドラゴンの侵攻を食い止めなければ被害は拡大の一途を辿る。


「止めないと。なんとしても」

「あぁ」


 俺達が思い描いている光景は、恐らく同じだった。

 街が焼けて容赦なく人が喰われていく、幼い頃の記憶。

 あの悲劇を繰り返すわけにはいかない。


「もうすぐだ」


 窓から派遣先の街が見えてくる。

 それは本部のある城郭都市よりも規模は小さいが、しっかりとした城壁が佇む街だった。

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