龍人と射手
街を一望できる位置、城壁の上に造られた通路に立つ。
風龍のスキルを使うことで広範囲から音を運び、ドラゴンと人の言葉の聞き分けを試みる。
明希は側にいない。
いち早く現場に向かうために地上で待機してもらっている。
明希もおまけ扱いされたことが随分と気に食わなかったようで、本人たっての希望とあって一番槍を任せることにした。
その分、俺の現地入りが遅れることになるが、時間差で突撃するのもそれはそれで奇襲になるはずだ。
「んんん」
神経を集中し、耳に届く声を注意深く聞く。
といっても、大半が人の声でどうでも良いような話ばかりが聞こえてくる。
カップルの痴話喧嘩、子供の遊び声、主婦の井戸端会議、番兵のあくび。
たまに犬や猫の鳴き声がした。
地上では様々なドラマが今日も繰り広げられている。
「あ、破局した」
この浮気者! と女が叫び、乾いた音が鮮明に聞き取れた。
たぶん、先ほど痴話喧嘩をしていたカップルだ。
浮気をした男の頬を女が引っぱたいたのだろう。
なかなかどうして鋭い張り手だった。
そういうのを聞いていて飽きはしないが、なかなかドラゴンの言葉は聞こえてこない。
けれど、それからしばらくして。
「――見つけた」
一瞬、たしかにドラゴンの言葉が聞こえた。
即座に携帯端末を手に取り、明希に連絡を取る。
すでに教えてもらった簡単な手順だ。
淀みなくスムーズに電話を掛けられた。
「そこから西にある工業地帯だ。廃棄になった工場か、休みの所だな。機械の駆動音がしなかった」
「わかった。詳しい居場所はこっちで探しておくから」
「頼もしいな」
ここからでは大まかな位置しかわからない。
あとは万能結界のスキルを駆使して探し出してもらおう。
実際にどうやるかは見当も付かないけれど、明希ならきっと上手くやる。
「俺も直ぐに――」
その言葉の続きを口にする寸前、風を斬ったような音が鳴る。
即座に右手に斬龍の刀を構築して柄を握った。
即座に戦闘服が和装へと変貌し、振り返り様に一撃を見舞う。
それは甲高い音を鳴らして、この身に迫っていた剣と打ち合った。
「悪い、用事ができた」
鍔迫り合いの最中にみる敵の姿。
それは目深なフードを被り、ローブを纏う男だった。
顔が隠れていてよく見えないが、首に鱗のような物が微かに見える。
リザードマン、という訳でもないだろう。
工場地帯から瞬間移動してきたというのも考えづらい。
となれば、答えは一つだ。
龍人は二人いた。
「――わかった」
明希はすぐにこちらの状況を察してくれた。
「こっちは私がなんとかするから」
「あぁ、頼んだ」
通話を切って柄を握る右腕に力を込める。
鍔迫り合いに打ち勝つべく剣圧を強めると、相手は張り合わずに後方へと跳ぶ。
やけに素直に引いたことを不審に思いつつ、距離を取った龍人を見据えた。
「地上に気を取られすぎたか」
携帯端末を懐にしまい、刀を構え直す。
短く息を吐いて、気持ちを落ち着けた。
まさかこちらが奇襲を受けるとは。
「貴様、何者だ?」
それはこっちの台詞なんだけどな。
「貴様からは同胞の力を感じる。だが、我らと同類ではない」
「……そうか、それで」
風龍のスキル――ドラゴンの力を感じ取っていたのか。
だから、俺の位置が割れた。
と言うことは、少なくとも明希の位置はわかっていないはず。
とりあえず相方が奇襲を受けることはなさそうだ。
そう判明して、すこしほっとした。
「貴様は、なんだ?」
それが聞きたくて、素直に引いたのか。
「素直に教えたら捕まってくれるか?」
「世迷い言を」
「まぁ、そうだろうな」
風龍のスキルを掻き消し、新しく銃龍のスキルを使う。
左手に拳銃が構築され、和装にマントが追加された。
完成した銃を手に取り、それを龍人へと向ける。
「それじゃあ力尽くだ。そっちもその気だろ?」
「不必要な争いは好みではないが」
龍人は右手に剣を握り、左手に逆手に持った短剣を構えた。
「必要とあらばこちらも容赦はしない」
「やりやすくて助かる」
引き金を引く。
銃声が開幕の合図となって、龍人との戦闘を開始した。
ブックマークと評価をしていただけると幸いです。




