2度目。ーー招待状という名の腹黒からの召喚状。・5
「だがまぁセイスルート嬢……ちなみに私はなんて呼んでいたんだい?」
「私を、でしょうか? イルヴィル様はケイトと愛称を呼んで下さっていました。本当の家族になるのだから構うまい? と」
「そうか。ケイト、だな?」
「まぁシュレン様以外の方が居る前ではケイトリン嬢と呼んで頂いていましたので、どちらでも」
「シュレンが居る時だけ?」
イルヴィル殿下が首を傾げる。寧ろ自分の性格ならば愛する婚約者の前でだけ、女性を愛称で呼ばないからだろう。
「私がヴィジェスト殿下から蔑ろにされていた事を、とても気にされていましたから。せめて義姉上様と自分だけの時は、と仰って頂いて」
「そう、か」
自分がそういった態度を取る程、私への扱いが酷かった事にイルヴィル殿下は気付かれたらしい。さすがだわ。
「ケイトは何の失態も無かった。私の方が上手だっただけだ」
気を取り直したようにイルヴィル殿下がそう仰った。私は黙って頭を下げる。それから少しの沈黙の後、私は気にかかっていた事を知るために口を開いた。
「イルヴィル様は……どこまでご存知でいらっしゃいますか?」
「隣国のことか?」
私の脈絡の無い問いにも即座に反応出来るこの方は、やはり凄い。黙って頷いた。
「ドナンテル殿下とノクシオ殿下が軟禁状態にあったが、現在は緩んでいる。くらいだな」
その程度か。自然と眉間に皺が寄っていく。
「ケイト? 何か気にかかっていることがあるのか?」
問われて私は困ったようにイルヴィル殿下を見ながら引っかかりについて話し始めた。
「1回目のケイトリンの人生で、今年は隣国とセイスルート辺境伯家で小競り合いがあります」
イルヴィル殿下が「なんだとっ⁉︎」と取り乱します。まぁそうでしょうね。小競り合いに端を発して戦争にでもなってしまえば、国民が一番迷惑を被ります。迷惑どころじゃ済まない。人が簡単に死んでいく。まるで感覚が無くなりゲームの駒を扱うような簡単さで。
「その小競り合いとはいつの出来事だ?」
私は記憶の底から引っ張りあげる。
「あと2ヶ月後くらい、でした」
「その小競り合いの行末は? 被害の程は」
「あの時はセイスルート家が勝利し、双方に死者は出なかった、と父からの書状には記載されてありました」
「書状?」
私の答えに頷いていたイルヴィル殿下は、そこに疑問を抱いたようでした。私はその疑問の答えを告げる。
「私は10歳で王都入りを果たし、以降辺境伯家の動向は父からの手紙で事情を知るだけでしたので」
イルヴィル殿下は「ああ……」と納得されたご様子。それ以上は何も言わず、色々と察して頂く辺り、やはりイルヴィル殿下は聡明なお方です。そして隣国とセイスルート家との間の小競り合いについて、知っていることを話すように促されました。
そう仰られても、情報のみしか伝えて来ない父上ですから、事実しか述べていません。これ以上詳しいことなど分かりませんでした。だからそのようにお伝えするほか有りませんでした。
また今夜に更新します。




