2度目。ーー招待状という名の腹黒からの召喚状。・4
イルヴィル殿下は更に不機嫌そうな表情を作っていく。
「本当に私が不機嫌だと思っていないのか?」
低い声音と視線で圧力をかけてきますが、私はにっこりと笑ったままその視線を受け止める。先に逸らしたのはイルヴィル殿下の方。
「……ヴィジェストが人生をやり直している、と話をしてきた時。聞いてはいたが、半分信じてはいなかった。但しやけに生々しい話が多く、夢・幻・虚言・妄想で切って捨てるにはいかないとも思えた」
「はい」
「いまいち信じていない私に、ケイトリン・セイスルート嬢もおそらく記憶がある、と言うのでヴィジェストの側近であるジュスト・ボレノーを差し向けたのだが。本当に記憶がある事に驚いた」
「まぁ私自身も人生を繰り返している事に驚きましたし、記憶がある事にも驚きましたが」
イルヴィル殿下が嘆息しつつ淡々と本題に入っていく。私が知りたい事の一つがーー
ヴィジェスト殿下がどうして私にも記憶があると分かったのかだった。
「だろうな。しかし、セイスルート嬢の私に対する態度は初対面であるにも関わらず、私を知っている人間の態度だ」
「……イルヴィル様は、ヴィジェスト殿下に蔑ろにされる私を良く気遣って下さいましたから。義姉上様の方が多かったですが。そうですね。未だ信じられないであろうイルヴィル様に一つ、イルヴィル様と義姉上様しか知らない事を口にしてみて宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
私が許可を求めれば、イルヴィル殿下は鷹揚に頷いた。
「シュレン様が私にこっそりと教えて下さいました。イルヴィル様がお疲れの時は膝枕を御所望されるのよ? と」
その瞬間、顔を赤く染めたイルヴィル殿下は、そのことを知られているとは思っていなかったのだろう。正しく2人だけの秘密だったはず。
「……成る程な。信じるしか無さそうだ。それは私付きの影でさえ知らないはずだ。シュレンと2人だけの秘密」
「ふふ。秘密を打ち明けて下さったシュレン様は可愛らしかったですわ。……あの時は、ヴィジェスト殿下との顔合わせを伸ばしに伸ばされてようやく顔合わせを終えたのに関わらず、婚約者として交流する時間として用意されたお茶会を忘れられて惨めに待ち続けていた私を元気付けるために、教えて下さいましたの。ですから、義姉上様をお叱りにならないでくださいませ」
内緒よ?
そう微笑んで教えて下さったシュレン様。私がイルヴィル様と義姉上様の仲の良さを、素直に称賛している事をご存知だったから励ましのために教えて下さった。
それは、私がお二人の仲の良さが分かるお話はありませんか?
と尋ねて教えて頂いた話だった。
「ヴィジェストが言っていたように、本当に婚約者を蔑ろにしていたんだな?」
そう仰るイルヴィル殿下の表情は消えていて、前回の私が良く見たイルヴィル様、です。
「はい。……私がこの召喚に応じましたのも、お尋ねしたい事がありまして。ヴィジェスト殿下は何故私が記憶持ちだとご存知ですの? 私はそのような失態を演じたつもりはなかったのですが」
「一つは、君がヴィジェストの婚約者の座を蹴ったこと。もう一つは初めて会った茶会でヴィジェストの色をまとっていなかったこと。らしい」
「つまり確証は無かったけれど、私がイルヴィル様の策略を携えたボレノー様に引っかかってしまったわけですね」
自業自得でした……。だって婚約者でもない私がヴィジェスト殿下の色のドレスなんて着られるわけないですからね。
私、そこまで常識外れでは有りませんよ?
それに婚約者の座を蹴ったのだって、偶然で済ませられる程度のもので確証には至らないもの。つまり、私の自業自得としか言えません……。隙を作らないように気を張っていたのに、やはりイルヴィル様には今回も勝てないようです。




