2度目。ーー招待状という名の腹黒からの召喚状。・3
非公式の茶会なのは分かっていたけれど。まさか庭園ではなくイルヴィル王太子殿下の執務室だとは思わなかったなぁ……。
前回のケイトリンの時には良くお会いしたイルヴィル殿下付きの侍従さんの後を着いて行きながら、歩く通路に見覚えがあって、記憶から引っ張ってくれば、執務室だった。背後はデボラとクルス。前もって専属侍女と護衛を連れて行きます、と申請しておいたので、すんなり通してくれる……わけじゃなかった。
門番の方に招待状を差し出せば、私とデボラの事は聞いているが、クルスの事は知らされていない、と言い出したから。門番とクルスの間で一触即発になりそうだったので、私は門番に「こちらで待ちますのでご確認をお願いします」と伝えるしかなかった。
というか、この対応以外の正解を、私は知らない。
イルヴィル殿下が良く相手を見極める時に使う手だと私は知っていた。こういう不測の事態に陥った時こそ、その人の真価が問われる。……が、イルヴィル殿下の言い分。
間違いである対応。
その1:門番に対して居丈高になる。(賄賂を渡す込み)
その2:イルヴィル殿下から招かれているのだから……と押し入る。
その3:門番に癇癪を起こす。(暴力行為込み)
その4:帰る。
どれもこれもイルヴィル殿下の顔に泥を塗る行為なので、正しくは確認が取れるまで大人しく待つ。この他にもイルヴィル殿下は良く相手を見極めるための方法を考えていた。……どうやら2度目のケイトリン人生を送る中でも変わっていらっしゃらないようで。安心しましたわ。
まぁそんなわけでイルヴィル殿下のお眼鏡に適ったのか、通されたイルヴィル殿下の執務室には、にっこり顔でお迎えして頂きました。……このにっこり顔って外面作っている時の顔ですねぇ。
「ケイトリン・セイスルートと申します。お初にお目にかかりますわ」
「イルヴィルだ。どうぞ、セイスルート嬢」
私が挨拶をすればイルヴィル殿下は、相向かいのソファーを示す。勧められる通りに腰を下ろしてイルヴィル殿下を真っ直ぐに見た。……本来なら、既に立太子されたイルヴィル殿下をこのように見るのは、不敬だと咎められてもおかしくない。王族と婚約者であるシュレン様と側近の方くらいが許される態度なのだから。
「……ほう? 私をそのように見る事は許していないが?」
「ふふ。イルヴィル様は私のことを本当の妹のように可愛がって下さいましたから、私がこのようにイルヴィル様を見ても咎められはしませんでしたのよ?」
不快だ、とでも言うように眉間に皺を作るイルヴィル殿下に、敢えてこのように言えば、イルヴィル殿下はフッ……と笑った。
「成る程? 妹、ねぇ」
「はい。イルヴィル様と呼んでも宜しいと仰いましたし、シュレン様を義姉上様と呼んでも宜しいと許されました。それに、そのようにわざとらしく表情を変える事も有りませんでしたわ」
……イルヴィル殿下の眉間の皺は、わざとらしい不快感を表していますが、元々王族……それも次期国王として教育されたイルヴィル殿下は、あまり表情を動かさないお方でした。それも微笑む以外の表情を動かさない方でしたので、寧ろシュレン様や私の前では微笑む事をやめて無表情でした。
それがイルヴィル殿下流の、気の許し方だったのです。




