閑話・1度目。ーー恋情と友情の狭間で。・4
ドナンテル殿下視点です。
ノクシオの方が優秀だと気付いたのは割と早かった。それでも努力をすればノクシオを超えられるのではないか、と考えていた時もあった。だが真面目に勉強を始めて気付いた。ノクシオは勉強だけじゃなく、そこから見えてくるものを予想して先を考えていた。
ノクシオと会話をするようになって気付いた事だった。おそらくこれが国を守り制する者なのだろう、と悟った。この頃には側妃である母の存在が国に害しか与えない事に気付き、どうすれば母を大人しくさせられるか、と考えていた。
そこで素直に次期国王はノクシオの方が向いている。と、母や周囲に訴えてしまったのは俺のミスで甘い所だった。母子なのだから俺の話を聞いてくれる、と変に自信を持っていた。だが違った。母は俺を子として愛していたわけじゃない。使い勝手の良い駒だったわけだ。駒が意思を持ってしまったから、母すらも駒として動かしていたコッネリ公爵を引きずり出してしまった。
「大人しく駒の役割を果たしていれば良かった」
初対面で蔑んだ視線で呟いたのがコッネリ公爵で。俺はこの男の部下に監視される日々が始まった。余計な言動を取らないように見張られていた俺にとって、ケイトリンとの手紙が安堵するものだった。だがこれもミスだった。ノクシオも同時にケイトリンとの手紙のやり取りをしていたから、ケイトリンにまで迷惑がかかった。
後からケイトリンの父親とコッネリ公爵との間に因縁がある事は知ったが、とにかくケイトリンが狙われ始めた。ここまで来てようやく俺は、ノクシオもコッネリ公爵の監視が付いているのではないか、と考え、ノクシオと共に行動する生活を選べば、やはり予想通りノクシオは監視される生活を送っていた。
この日々が長くなっていく程に、ノクシオとの仲は兄弟というより友人というか同志というか、よく分からないモノに変わっていった。そんな頃にケイトリンが留学を希望したと知った。ケイトが来てしまえば、ケイトが今度はこんな窮屈な暮らしになってしまう、と恐れた。
来ないで欲しい。
そう思う傍ら
来て欲しい。
そう思う心を否定出来なかった。
結局現れたケイトは全く変わらないまま、俺とノクシオの前に立っていた。この時の俺はノクシオの気持ちにも気付いた。俺と同じくケイトの存在に希望を持ったのだろう。結局、俺もノクシオも軟禁生活に疲れかけていた。俺達の現状に気付いているくせに何もしてこない奴等に嫌気が差していた。
それなのに、ケイトは……ケイトリン・セイスルートは、俺達が勝手に与えた『友人』の称号を持って現れた。もう、惚れるな、という方が無理だった。いつもと変わらず淡々と俺達の前に現れたこの女のためなら、俺は全てをノクシオに譲り渡しても良かった。王子の位も投げ捨ててでも、この女を手に出来るならば惜しくないと思った。
俺達の友人だから、と態度も変えず。相変わらず言いたい事は言って。清々しい程に俺達の想いに気付かず淡々としていて。そうして当たり前のようにコッネリ公爵の刺客にも怯えずに立ち向かい、とうとう苛立ちが増したコッネリ公爵が無理やり学園にやってきてケイトリンを脅すも、それすら物ともせず。それどころか追い返してしまった。
俺とノクシオがあれほど疎ましく思い、どうにかして一矢報いようと奮闘していた。それはコッネリ公爵から鼻で笑われていたというのに。あっさりと軽やかにコッネリ公爵の態度を崩して、俺達より先に一矢報いてしまった。
……これが、俺とノクシオが惚れた女。
鮮やかに俺達の記憶に自身の存在を縫い付けてしまった当の本人は、何も無かったかのように変わらない態度を取り続けた。侍女長も護衛も、ケイトリンを見る目が変わった事にすら気付かないんだろうな。
そうして小声ながらケイトリンを捕獲する事を決意した異母弟・ノクシオを見ながら、全く気づいていないケイトリンは一筋縄ではいかない、とは思った。でもなぁ。悪いな、ノクシオ。他の何を譲っても、ケイトリンは譲れない。俺も本気を出そうと思うし、簡単には諦めないからな。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
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