閑話・1度目。ーー恋情と友情の狭間で。・3
ドナンテル殿下視点です。
生意気で上から俺を見るような不敬な女。
ーーそれがケイトリン・セイスルートの第一印象だった。俺は側妃の子で有るが第一王子。正妃であり王妃であるノクシオの母より先に父上の子である俺を産んだ事が、俺の母親の自慢。そして母親から密かに次期国王は俺だ、と言われて育った。
だから俺は我儘だし傲慢だし勉強嫌いだった。それでも第一王子で次期国王だから許されると思っていた。ノクシオの存在を知っても俺の方が立場が上だと思っていたし、ノクシオを弟だと思って接していた。ある意味幸せな思考で、今の俺からすれば恥ずべき考えだと思っている。
俺に出来ない事はやらなくて良いし、俺が出来なくても優秀な部下にやらせれば良い。俺が国王になれば一番偉い。
そう言われて育った俺が、間違っていたのだ、と知ったのは、俺の婚約者になる名誉を断ったバカな小娘のくせに、自国の王子の婚約者候補者に選ばれる名誉は手にしようと考えた小娘に苛立って文句を言おうと押しかけに行った時だった。
ケイトリンは俺の傲慢さに文句を言う。それに苛立つ俺をいなしながらノクシオに対しても臆する事なく意見を述べて、俺達にすり寄って来る他の令嬢達とは全く違った。最初は苛立ちだけが募ったが、そのうちここまではっきりと言ってくるケイトリンが面白く思えた。
そこからケイトリンと手紙のやり取りが始まった。淡々とした文章で、全く俺を持ち上げる事もなく、本当に友人としての対応しかしてこなくて。苛立つと共に、媚びない所が新鮮で。ケイトリンとの手紙のやり取りから俺は少しだけノクシオと関わる事を増やした。
最初は警戒していたノクシオだったが直ぐにそれは見せかけだと気付いた。俺はこれでも自分の勘は信じられると思っている。ノクシオは大人しい王子だと周囲に見せかけているが、その裏で何かを画策している奴だ。そこに気付いてから、俺は母親の声だけでなく城の噂話を集める事にした。
使用人がいたら少し隠れて耳を澄ませば、母親である側妃と俺の評価が聞こえてきた。それはもう酷いものだった。俺達母子は相当嫌われているようだ。次期国王も俺ではなくノクシオを推す声が多かった。何より、俺がこれほど嫌われている事を知って人を信じる事が嫌になった。
俺の事を褒めていた使用人が、影で俺の事をバカにしていた。
これを知った時、俺の世界は変わってしまった。いつでも人を疑うようになった。そんな俺がケイトリンも疑ったのは当然だったが、手紙でも実際に会っても彼女は驚く程変わらなかった。俺の態度が悪ければ淡々と忠告するし、正しければ少しだけ口元を緩めて褒める。或いは手紙で叱責しながら一方で多少上から目線で褒める。
会いに押しかけに行った時から全く変わらず接してくる。そんなケイトリンに陥落しない方がおかしい。単純と言われようと笑われようと、別に構わなかった。ただ、彼女に相応しい男になりたい。それを胸に少しずつ俺は態度を変えていった。
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