2度目。ーー偽りの平和と帰国後の難題・2
セイスルート辺境伯家玄関で私は家族と使用人達から熱烈な歓迎を受けていました。ただ1人を除いて。ーー誰あろう、私の姉であるキャスベル。
「ケイトリン!」
「お姉様。お久しぶりですわ。ただいま帰宅しました」
なんだか随分と顔を赤く染めたお姉様。私はスルーして挨拶をしたのに。お姉様は家族全員の前で、私を罵り始めました。
「何がただいま帰宅、よ! あなた、何を勝手に隣国へ留学しているの!」
「勝手と仰いますが。お父様もお母様もご存知ですし、王家から許可ももらっておりますから、何も勝手な事はありませんが」
お姉様の的外れな指摘に否定をすれば、お姉様は更にお怒りを覚えたようです。
「刺繍も出来ないあなたが、どうやって隣国へ留学出来たというの! あなたの刺繍の腕前では合格出来るわけないでしょ」
お姉様。刺繍(一芸)で合否の全てが決まるわけ、ないんですよ。
「お姉様……。刺繍の腕前なんかではなく、普通に入学試験を受験致しまして合格致しましたわよ」
お姉様とのやり取りに疲れつつある私は、お父様とお母様の方へチラリと視線をむけました。お2人共顔色が変わっています。正反対の色ですけどね。お父様は怒りで真っ赤。お母様は真っ青で倒れそうです。この反応を見るにお姉様の暴走は、予期せぬもののようです。
「なっ……。あなたがそんなに頭が良いわけが……」
いやお姉様の学力があまりにも残念な方がビックリですわ。いくら病弱で学園の入学を断念していたからって、お姉様にも家庭教師は付いていたはず。それなのに入学試験を受けられない程の学力って……何を勉強してきたのかしら。もしや勉強をしていなかった?
「キャス。そこまでにしておけ。ケイトは疲れているのだから。ケイト着替えたらサロンにおいで。お茶にしよう」
言い募るお姉様をお兄様が窘められました。私は頷いてお父様とお母様の顔を見ました。2人共頷いたのでロイスの頭を撫でて、お姉様を押さえ付けているお兄様に頭を下げて一旦自室へ戻りました。およそ1年ぶりの部屋は、いつ帰って来てもいいように整えられていたのが分かる部屋でした。使用人達に頭が下がります。
デボラ経由でお土産の隣国で流行っているお菓子を、私の感謝の言葉と共に届けてもらいましょう。そんな事を考えながら着替えつつ更に思考を展開させる。
ーーお姉様は何故あそこまで私に突っかかるのかしら。
刺客を追い払う方が大変ですが、お姉様の件は中々に難題だと思うのです。ちなみに隣国の敵・コッネリ公爵(仮定)の刺客は帰国の途でも狙われましたし(クルス達影が追い払っていました)帰国してセイスルート辺境領に入ってもやって来たようですが、それこそうちの臣下達や影達が追い払っていたので、現在は引いたようです。全くしつこいですわ。これは、隣国へ戻る時がまた大変でしょうね。
さて。サロンへ向かいましょうか。
皆へのお土産を持つと共に、お姉様が何故あれほど私に突っかかるのか探りを入れる必要がありますわ。……なんでこう次から次へと問題が出てくるのかしら。私は平和が欲しいのですけど。おそらく近日中にはイルヴィル殿下とヴィジェスト殿下からの呼び出しがあるでしょうし。
はぁ。2度目のケイトリンの人生。ハードじゃないでしょうか?




