2度目。ーー今の話、聞かなかった事にして良いですか?・3
「性格じゃなくて性質か。それが俺の生まれ持ったものならどうしようもないな。念のために尋ねるがケイトリンは、俺とノクシオ。どちらが国王に向いていると思う?」
「ノクシオ殿下ですね。この優しそうな笑みで完璧に腹黒さを隠せる所なんて特に。国王なんて腹芸が出来て当たり前でしょう?」
ドナンテル殿下の質問に私はあっさりと答えた。ドナンテル殿下がクツクツと笑う。
「俺もそう思う。だから俺は俺を王太子にしたい連中に、王太子にはなる気がない。と言ったんだが」
「まぁドナンテル殿下の気持ちを聞いて引き下がるくらいならば、争っていないでしょうねぇ」
ドナンテル殿下が溜息をついて発言するので、私は成る程と納得した。ドナンテル殿下も困っているようだ。
「ノクシオ殿下」
私は他人事のように黙っているノクシオ殿下に話しかける。
「なんだ?」
「ノクシオ殿下の事だから、既に目ぼしいお相手は何人かいらっしゃるのでしょう? その中の誰でもいいから婚約者にすれば良いじゃないですか。どうせ目ぼしいご令嬢は、見目も麗しく身分も申し分なく、王妃として公務も執務も外交も熟せる方なのでしょう?」
この腹黒王子の事だ。自分が王太子になるために王太子妃ゆくゆくは王妃として立つのに相応しい令嬢を何人か見つけているはずだ。
「……本当にケイトリンは面白いよね。まぁ確かに何人か心当たりはいるけど」
溜息と同時にノクシオ殿下が頷くが、何故か少し不機嫌になっている。
「じゃあその中の1人と接触して婚約者として国王陛下と王妃様と重鎮方に紹介すれば、ドナンテル殿下は晴れて王太子争いから抜けられると思うのですが。ノクシオ殿下の事ですからドナンテル殿下が国王の座に着く気がないのはご存知でしょう?」
私の指摘にノクシオ殿下がとうとう不機嫌さを隠そうともせずに言った。
「ケイトリン。君は、兄上の気持ちばかり良く解っているんだな!」
私は目を瞬かせる。不機嫌さを隠そうとしないノクシオ殿下。呆れたようなドナンテル殿下の表情。チラリと護衛の方と筆頭侍女に視線を向ければ、とても驚いた表情を見せている。……珍しい事もあるものだ。ノクシオ殿下が人前で感情を見せるなんて。
私はクスリと笑う。
「何がおかしい」
口を尖らせるノクシオ殿下に益々笑ってしまう。そうして私は口を開いた。
「別にドナンテル殿下だけのつもりは有りません。ドナンテル殿下が王太子……後に国王の座に着く気が無い事が解るのと同じくらい、ノクシオ殿下が出会った頃から国王の座に着く事を目指していらっしゃるのは気付いていましたよ」
あまりにもおかしいので、食事が終わっている事もあり、友人の称号を頂いている事もあり、唇を尖らせるノクシオ殿下の頬をツンツンと指で押してやる。
「何をする」
ノクシオ殿下が頬を赤く染めて私の手を払い除ける。
「可愛かったもので。私の弟のロイスが拗ねるとそういう表情を見せるのですわ」
正直に教えれば、「私は弟と同じ扱いか」と更に不機嫌になったので益々笑ってしまった。
「弟と同じというよりは、ドナンテル殿下とノクシオ殿下が私を友人と認めたのでございましょう? ですから友人として親しみを込めてみましたわ」
私がいつまでも笑っている所為か、「それとも友人とはこういうやり取りもするのか」と驚いた声のドナンテル殿下の所為か。ノクシオ殿下は不機嫌さをようやく抑えた。
「不機嫌が直ったのでしたら、もう午後の授業の時間が差し迫っておりますわ。コッネリ公爵の所為で時間を無駄にしてしまいましたもの。急ぎましょう? ドナンテル殿下は本日はこのままお休みされています?」
私が立ち上がりながらノクシオ殿下とドナンテル殿下に声をかけた。ドナンテル殿下は本日はこのまま休む、とのこと。ノクシオ殿下は若干不機嫌さが漂うものの、私をエスコートしようと手を差し出してきた。その手を取れば、少しだけ頬を染めているように見えるノクシオ殿下が何かを呟いた。……まだ拗ねていらっしゃるのかしら。
「ノクシオ殿下?」
「……なんでもない」
私には聞こえなかったのだが、唇の動きを読んだドナンテル殿下が後日そっと教えてくれた。
「覚悟しとけよ」
だそうだ。誰に何を覚悟しとけ、なのか、全く分からない私が首を捻れば、ドナンテル殿下は理解出来ているのか「鈍いな」と呆れた。私が鈍いんですか? 何に対して? 益々首を捻った私。
「まぁ俺も諦める気はないからなぁ」
そんな私に呆れながらドナンテル殿下も意味不明な事を言い出した。何を諦める気はないんでしょう?
さっぱり分からないけれど、この件は深く考えてもドナンテル殿下からもノクシオ殿下からも答えはもらえない気がしたので、忘れる事にしました。




