2度目。ーー平穏な日々に終わりが訪れました。・5
「それで。先程のやり取りは影が動かれて国王陛下と重鎮方にご報告がいったのでしょう?」
ようやく昼食が摂れるのでウキウキしながら私は殿下方を見た。ちなみに今日の昼食はオムレツだ。トロトロの半熟オムレツが塩胡椒で味付けされている。この世界にケチャップ無いの残念。トマトがあればいいのに。……今度探してみようかしら。
オムレツはケチャップがイイと思うのよ。デミグラスソースも好きだけど。付け合わせはジャガイモっぽい野菜のサラダ。まんまポテトサラダなんだけど、ジャガイモという名前じゃない。でもポテトサラダ。美味しい。小ぶりのバターロールパンも美味しい。これも名前は違うけど。前世の記憶のせいかこの方がしっくり来る。
スープはスープという名前であってる。クリーム系のスープがまた美味しい。……あ、自分から話題提供しておいて食事一色の思考になってしまったわ。
「ケイトリン。ようやく戻ってきたか? 食事に意識を傾け過ぎているのが丸わかりだったぞ」
ドナンテル殿下が呆れ顔で指摘した。うん、すみません。
「先程のケイトリンの質問だけど。影が直ぐに働いてくれたはずだよ。それに彼女と今、戻ってきた護衛も証言してくれるはず」
ノクシオ殿下に言われて扉付近を見れば先程の護衛が佇んでいる。私はマナー違反だとは解っていても彼の元に向かい頭を下げた。
「先程はコッネリ公爵の息がかかった方だと決め付けて無礼を申し上げました。許して欲しいなどと烏滸がましいことは申し上げませんが、私の自己満足と言えども謝る必要がある案件です」
下げた頭の上から息を呑むような音が空気から伝わる。
「い、いえ。セイスルート様の発言は正しいものでございますから、私のような一介の護衛に頭を下げずとも宜しいと思われます」
狼狽たような声で頭を上げて欲しい、と告げられる。
「ボルグ。ケイトリンはそういう娘だ。彼女の好きにさせてやって」
ノクシオ殿下の苦笑混じりの声が背後から聞こえてくる。ボルグと呼ばれた護衛は「はっ」と応えてからゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「ノクシオ殿下の護衛を務めております、ボルグと申します。セイスルート様。頭を上げて下さい。セイスルート様の謝罪を受け取りました。以降、お気にされることの無きよう」
「……そう。分かりました。では、これでこの話はおしまいですわね」
護衛の静かな声に私は頷いて席に戻り、トロトロオムレツを堪能する事にした。もちろんその間もコッネリ公爵に対する話題は変わらなかったけれど。
「それで? 学園にまで何しに来たんです、あの男」
オムレツに幸せを感じて(冷めていても美味しい物は美味しい。美味しいは正義)頬を緩めつつドナンテル殿下に尋ねる。だってドナンテル殿下と一緒にいたから。
「ケイトリンに対する牽制だろ。刺客を悉く追い払っているらしいじゃん」
ドナンテル殿下がニヤリと笑う。また私をおもちゃ扱いして。
「死にたくないんだからお帰り頂くのは当然でしょう」
「さすがセイスルート辺境伯家の令嬢。普通の令嬢なら狙われているって解るだけで寝込むよ」
ノクシオ殿下もニヤニヤとしながら私を褒めた。……揶揄うのは楽しいでしょうね。
「お褒め頂きありがとうございます。それで私をこんな所まできて牽制する程、焦る何かが有りますか?」
私がピンポイントをついたのか、ようやく殿下方は真面目な顔になった。……最初からその顔でさっさと話せば良いのに。まぁとにかく、ご飯が不味くなりそうな話題より前にこのオムレツを食べ終えちゃいましょう。
呑気に考えていた私は、この後の話にのほほんとしている場合じゃないわよ、私! と叱り付けたくなったのは言うまでもない。




