2度目。ーー平穏な日々に終わりが訪れました。・2
殿下方専用のサロンに入ればそこには、やはりと言いましょうか。ドナンテル殿下が待っていらっしゃいました。もちろん、お一人では有りませんでしたが。2度目では初めてお会いしますわね。
「ドナンテル殿下。体調は平気そうで何よりですわ」
私が動揺もせずにノクシオ殿下から少し離れて淑女の礼を取れば、ドナンテル殿下が僅かに唇を震わせてから少し引き攣った笑顔で「ああ」と頷いた。
「全く動じてないようだな」
前回と同じ声音の、コッネリ公爵に私は微笑む。王族専用のサロンに部外者が居るというのに、護衛も侍女も咎め立てしない。侍女はサロンで待っていたから誰何しないのは解るとして、ノクシオ殿下の護衛は、誰なのか判らないはずのコッネリ公爵に対して誰何の声も上げず咎め立てもしない。
いくらドナンテル殿下と共に居てもこれは良い事なのかしらね?
「ノクシオ殿下」
私が本当に動揺していない事に気付いたのか、私の呼びかけにノクシオ殿下が一瞬躊躇ってから「なんだ」と応えてくれた。
「殿下の護衛は随分と優秀ですのねぇ。貴族の名前と似顔絵で全ての貴族を把握しているとはいえ、此処は王族専用サロン。ドナンテル殿下が招いたとしても、ノクシオ殿下がご存知無い招待客のはずなのに誰何の声も上げず、咎め立てすらしない。……我が家ではこんな使えない護衛など不要ですわね」
チラリとノクシオ殿下の背後に侮蔑の視線を向けてやる。私の視線を受けても動じていない所を見れば、やはりコッネリ公爵の手の者なのでしょう。……全くもって不愉快ですわね。
「おやおや。随分と威勢の良いご令嬢だな」
余裕の顔を見せているコッネリ公爵がすかさず口を挟んで来た。
「あら。この国では王族への直答を許されている私と第二王子殿下との会話に割り込めるような臣下がいますの? 随分と上下関係が緩いんですのね? ねぇ、たかが公爵の身分しかない、コッネリ公爵様?」
うふふ、と私は微笑みながら視線を向けてあげた。
「ほう。私を知っているか」
「まぁ! お父様からお伺いしていた通りのお方ですわね? もしかしたら……程度でカマを掛けてみましたのに、本当にコッネリ公爵でございましたの。お初にお目にかかりますわ。セイスルート辺境伯の娘・ケイトリンと申します。お父様が仰っていらしたお顔の通りの方でございますのね」
「セイスルート卿が私のことをどのように仰っていたのかな」
ニヤニヤと悪人の笑みを浮かべるコッネリ公爵に、ホント良くお似合いな笑みだこと、と思いつつ口を開いた。
「うふふ。悪人の面構えに、常に悪辣で人を貶める事しか考えていないような表情しか浮かべない、と仰っておりましたわ」
前回でも、今回でも。
コッネリ公爵はさすが面の皮が分厚いお方なので、この程度の皮肉などに痛痒を感じないようですわね。
「ははは。セイスルート卿がそのような事を。私に痛い目に遭わされたのが堪えたのかな」
「そうですわねぇ。若い頃2度程煮湯を飲まされた、と、それはそれはお怒りでしたから、未だもってコッネリ公爵様のことを熱烈に思っておいでだと思いますわ」
「それはそれは。光栄だな」
互いに笑顔で応酬を繰り返し、それから私は「さて」と仕切り直した。瞬間、コッネリ公爵が鼻白んだのが分かった。どうせ、主導権を小娘如きに握られたのが気に食わないのでしょうね。
でも。
私だって前回のケイトリンの終わりに殺された事は根に持っていますからね。




