1度目。ーー芽生えかけた2人の間の何かに蓋をする。
「ケイト……」
「なぁに?」
「オジサン、ドキドキしちゃうからそれ以上はやめて下さい」
ドミーが顔を赤らめているから私はそれ以上言うのをやめた。
「まぁそういうわけで私は殿下の事を何とも思っていないし、祝われても嬉しくないけれど仕方ないってところね。まぁ婚約破棄が無いなら結婚することになるから、そしたら王子妃にしか出来ない事で辺境伯家の教えを全うするわ」
「辺境伯家の教え?」
「我が辺境伯家はね。代々王家に忠誠は誓わないの。国そのものと民に忠誠を誓っているのよ」
「それって」
「ぶっちゃけた話。王位継承争いだろうが現王朝が滅亡しようがどうでもいいの。内乱になるなら民と土地を守る。それが辺境伯家の忠誠。この国は幸いにも内乱が無いから現状辺境伯家は国境を守っているわ。王家は我が辺境伯家の忠誠を王家に欲しいのよ。だからこその婚約なの」
「……知らなかった」
「ゲームでは語られない部分ってやつね」
私がふふって笑うとドミーも子どもみたいに満面の笑みを浮かべてくれる。……本当にこの人と居るのは心地よい。辺境伯家に居る頃のように肩の力が抜ける。私が王子妃教育を受けるために10歳で王都に移ってからずっと8年間も辺境伯家に帰る時以外は足を引っ張られないように生きて来たから。ドミーに出会えて良かった。
「そういえばゲームで思い出したけど、ヴィジェスト殿下とロズベル嬢は学園に通っているみたいだけど、なんでケイトはいつも城にいるの?」
「ああ。そうね。ゲームとは違う部分よね。そもそも私は学園に入学していないのよ」
「えっ⁉︎」
「10歳から王都で一人暮らし……って言っても使用人はいるけれど……の私は王子妃教育を受けるために王都に居るの。だから学園に入学前には学園で勉強する分は終わっていて。終わっているから通う意味が無いのよ。王子妃として必要な令息・令嬢達との交流もお茶会や夜会で顔を合わせているからそれなりに仲良くさせてもらっているし」
「そう、なのか……」
「だから登城しているのは本格的な王子妃教育のためよ」
「ケイトは……頑張り屋だね」
「……ありがとう。だからね。ドミーから買う絵は私の細やかなご褒美なのよ」
「そっか。分かった。じゃあケイトが望む限りたくさん描くよ」
「ありがとう。お願いね。ところでドミーって何歳なの? オジサンなんて言うけど」
「日本人としては30年の生涯。30プラス25歳だから立派なオジサンだろ?」
成る程。それは確かに立派なオジサンだ。でも前世の年齢を足したら私だって35歳くらいだけど? それは言わないお約束かしら。
「今のドミーはオジサンじゃないわ。25歳のドミトラル様は男性としても働き盛りというのでは無くて? 素敵だわ」
「ありがとう、ケイト」
私の言葉にドミーは柔らかく目を細めて顔が真っ赤で……そして空気が少し甘くなりかけている? 慌てて私は気付かないフリをして「どういたしまして」と言いながら何とも思っていない口調で尋ねた。
「ドミーは恋人を作らないの? 奥様は?」
私の質問にドミトラル様は哀しげな顔をしてから笑って「どちらもまだいいかな。俺はまだ半人前だからね」と答えてくれた。彼はさすが大人だった。