2度目。ーー秘密を打ち明ける相手は選びたい。・3
お待たせしました。
「入っていらっしゃい。……デボラ。あなたにも聞いて欲しい事です」
窓の向こうに声をかけ背後で黙って私の様子を窺っていたデボラにも聞くように告げる。2人をソファーに座らせ私は窓を閉めながら何処から話そうと考えた。
「お嬢様。お茶をお淹れしましょうか」
デボラが大切な話だと解っているのだろう、気を利かせてくる。それには手を上げて押し留める事で返答し、ゆっくりとデボラの茶色の目とクルスの黒にも見える焦げ茶の目と視線を合わせた。
「デボラ」
「はい」
「私が8歳の誕生日を迎えた3日後に、怖い夢を見たと話した事を覚えていますか」
「はい。お嬢様が悪夢を見たと仰ったのはあの日だけでしたので」
「あの日の朝。私は2度目のケイトリン・セイスルートの人生が始まりました」
私は2人から目を逸らさずに1度目のケイトリンの人生を語って聞かせた。表情を変える事のない2人。だが、デボラはその手が微かに震えているのが見てとれる。クルスは指先が僅かに震える程度だが。
「クルスは前回でも私とお父様の連絡係を務めてくれて、良く仕えてくれました。本当に助かったわ」
私が微笑むとクルスがハッと深呼吸をした。にわかには信じ難い事なのだから当然の反応でしょう。
「お嬢様」
「なに?」
「お話を荒唐無稽と切り捨てるには、あまりにも現実的な部分があります。ですが、やはり信じ難い話」
「そうでしょうね」
クルスの言葉に鷹揚に頷く。
「ですが。もしや……と思う事が一つだけ。お嬢様“サクラ”という言葉をご存知か」
多分私の目は驚きで見開かれているはず。
「ご存知……なのですね」
尋ねたクルスも呆然としたように言葉を溢しました。
「サクラはね。花の名前よ。この国には存在しない樹木の名前。春に薄いピンク色の花を咲かせるの。あなたには前回教えた言葉なのだけど、覚えていたの?」
私が説明すればクルスが思い悩んだように言葉を落としていく。
「おそらくお嬢様が2度目だという人生を歩み始めた日からです。脳裏に強く“サクラ”なる言葉が焼き付いておりまして。ですがそれまで一切知らなかった言葉でしたから気が触れたのか、と悩んだ事もありました」
「……それは悪いことをしたわね。サクラの言葉を知っている人が私ともう1人、ドミトラル様という方がご存知だったのよ。だからあなたとドミトラル様の縁を結ぶために、あなたに託した言葉だったの」
「……それは一体?」
途中で話をやめていた一度目の人生について、私は再度話を始める。
「……そうして私はコッネリ公爵の意を汲んだ暗殺者に殺されそうになったヴィジェスト殿下を庇って代わりに命を落としたの。あの暗殺者は確実に殺しにかかって来ていたわ。毒が塗られていたもの。私もただ刺されただけなら助かったと思うけれど、毒は勝てなかったわね」
最後まで語り終えた私に、デボラがフゥッと息を吐いてから得心したような表情を見せた。
「そのような理由からお嬢様は毒物を体内に取り込んで身体を馴らしたい、と仰っていたのですね」
2度目の人生が始まって1ヶ月するかしないかの頃から私が毒に身体を馴らしたいと言い出した事に、デボラはようやく理解したように頷いた。ちなみに、その提案は理由を述べられなかった私の分が悪く却下されている。未だに毒物に対抗出来る身体にはなっていない。
「私は1度目のケイトリンとして暗殺されました。なんて言って信じてもらえると思っていなかったのよ」
「まぁそうでございましょうね。では何故私とクルスに話を?」
「元々話すつもりは無かったわ。だって誰にも信じてもらえないと思っていたもの。ただ話さなくてはならない状況ならば、デボラとクルスなら打ち明けても頭から否定しないくらいの心の広さは有ると思っていたのよ」
肩を竦めて私は本音を吐き出しました。そんな私の仕草にデボラはふふっと笑い、クルスは真面目な表情で「信用して頂きまして感謝致します」と頭を下げてきた。……前回もクルスって妙なところで真面目さが出ていたのよね。
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