1度目。ーーいつの間にか風化した失恋話。
「私がね。殿下と婚約することをお父様から伺ったのは10年前。私が8歳の時。殿下とロズベル様は乳兄弟だからもっと前から思い合っていたのでしょうね。私が殿下と婚約者として初めてお会いしたのは13歳の時だったわ」
「えええ⁉︎ ち、ちょっとごめん! それホントの事⁉︎」
「ええ。どうして?」
「ゲームだと、ヴィジェスト殿下とケイトの婚約はヴィジェスト殿下が産まれた時なんだよ。随分と遅くない? しかも君たちが会うのももっと前だよ⁉︎」
「まぁ現実なんてそんなものよ。……いえ違うわね。確かに私と殿下の婚約は殿下が産まれた時に話が出ていたわ。というのもイルヴィル殿下の婚約者が公爵家のシュレン様に決定していたから私がイルヴィル殿下の婚約者にはならなかったのよね。年齢は私とイルヴィル殿下は3歳差でおかしくなかったけれどシュレン様はイルヴィル殿下と同い年だったから産まれた時に婚約したのよ。で。私が産まれてヴィジェスト殿下が産まれたから私達を婚約させようと王家は思っていたけれど、お父様が嫌がったのよね。それで私の意思を確認して婚約することにしたの」
「で。君は受け入れた?」
「それはそうでしょう。王家からの打診を断れるわけ無いわ。おまけにお父様が何をやらかしたのか知らないけれど、何かやらかしたから国王陛下がその尻拭いの代償に婚約話を持ちかけてきたのだもの」
「ゲームでは知らされない裏話を登場人物から聞かされる制作サイドって斬新」
「ああやっぱりその辺はゲームでは詳しく語られない部分なのね。とにかくそんな話を国王陛下から直接聞かされた私に断る術は無いでしょう? それで受け入れたのだけど。殿下にはもうロズベル様がいらっしゃった。だから顔合わせが遅くなったのね。私が15歳。殿下が13歳でお会いして私は一目惚れしたわ。その時殿下から恋人がいるから婚約破棄したいって言われたのに、私が恋をしてしまったから愚かにも婚約継続を望んでしまって」
「で、現在に至る?」
「ええ。でもね。ドミーに会う1年半くらい前だったかしら。殿下は私には決して見せない甘い笑顔を女性に見せていたわ。女性は後ろ姿だったけれどどう見ても恋人同士だった。特徴のあるプラチナの髪をした殿下と関わりある女性なんて1人しか居ないからロズベル様だって直ぐに分かったわ。あんな笑顔を見かけてしまったら、私の失恋は決定じゃない? だからそこからは王子妃になる事で出来る事を探す日々を送っていたの」
「君は……ケイトは嫉妬しなかったの?」
「嫉妬してどうなるの? もっと殿下との関係が仲睦まじいものなら嫉妬も有り得たけれど殿下は初対面から恋人がいるって言う人よ? 婚約者の私に。そしていつも素っ気ないの。これで嫉妬なんて出来ないわ。そういう意味では私もそんなに殿下を好きでは無かったのね。だから殿下にはお互いに不干渉を貫きましょう。って言ったわ。不干渉を貫ける程度の気持ちだったといえばそれまでね。それから1年半くらいしてドミーに出会ったの」
「えっ? じゃあ俺と出会う前にはもう殿下の事を好きじゃなくなってた?」
「ええ」
「うわっ。随分とゲームと違い過ぎる。あっ! そっか。日本人の記憶があったからか!」
「いいえ?」
「えっ」
「私が前世を思い出したのはドミーと目が合った時よ。あの時ドミトラル様と視線がぶつかって思わず、スマホが欲しいわ……と思ったの。で、スマホってなんだっけ? って思ってから思い出したの」
「えっ? は? 俺と出会って思い出したの⁉︎」
「ええ。ドミーの顔が前世の私の好み、ドストライクなんだもの!」
そう。この美術品のような美しいドミトラル様の顔。乙女ゲームが元だからか日本人っぽい部分があって、なんていうの? エキゾチック? オリエンタル? 東洋系の顔立ちに黒い髪も日本人っぽくて好みだし、何より日本人には無いアメジストの目に私は射抜かれた。透明な視線が凄く新鮮で……絶対に言えないけれどマコトの記憶を思い出す程強烈な一目惚れだった。
ヴィジェスト殿下への一目惚れなんてあっという間に消え失せる程に、ね。