2度目。ーー諸々の問題を見なかった事にしたいんですけど。・4
「まさか……とは思うけれど、コッネリ公爵の長年の計画?」
「さて。肯定も否定も出来かねますが」
証拠は無く予測ということか。
「でも。もし伯爵家に居たご令嬢が亡くなられた事も没落した事も予定通りならば……相当な時間をかけているとみるべきね?」
「予定通りならば、ですね」
証拠も無しに憶測で物を言っても仕方ない。影はあくまでも調べて来た事柄を述べるのが基本なのだから。まぁ予測は出来ているでしょうけれど。
「現状、動く事は出来ないわね。引き続き警戒はお願い。それからヴィジェスト殿下の件だけど。あの方はまだ学園に入学出来る年齢では無かったはず。内定していても許可は出ないでしょう?」
「おや。気付かれましたか」
……試していたのね、クルス? まぁいいわ。
「来るとしたら確かヴィジェスト殿下の側近であり宰相閣下の末子が私と同い年ではなかったかしら?」
「左様でございます。おそらくお嬢様の予想通りでしょう。ボレノー伯爵家四男・ジュスト・ボレノー様でございますね」
ジュスト・ボレノー。ドミトラル様の話では彼も攻略対象のうちの1人。……ゲーム内容を知らないって厄介だけど、逆に言えば予備知識が無い分、真っ新な気持ちで対峙出来るわね。
さてさて。生まれが四男ではなく長男だったならば間違いなく宰相閣下の後を継げると言われる程の秀才様はどのような方なのかしらね。
「入学準備は万全なのかしら」
「ヴィジェスト殿下の代わりにいらっしゃるならば」
「でも彼はロズベル様の顔をご存知ないのでは? 私もですけど」
「問題はそこでございますね。……まぁお手並み拝見で宜しいのでは?」
アナタ、実はジュスト様が噂通りの秀才なのか試す気満々なのね……。
「そう。……他に報告は?」
「特には」
「では、下がって頂戴。……ああそうだわ。3人用にカップケーキ作っておいたから食べて頂戴」
「お嬢様お手製の⁉︎」
私が頷けば、実は甘いもの大好きなクルスが嬉々として「有り難く頂きます!」と消えていった。あんなに喜ばれると作り甲斐がありますわね……。
刺繍やレース編み等手芸物は壊滅的な私でも、料理は人並み、お菓子作りは駆け出しの菓子職人くらいの腕前であると自負している。そんなわけで時間があればお菓子はよく作っている。
「それにしても……。想像の域を出ないけれど側妃の実家とされている伯爵家の件は気になるわね。後はジュスト・ボレノー様か」
ジュスト様は入学後に早めに接触しておくべきかもしれない。敵が味方かで対応も変わる。……攻略対象なのだから、ロズベル様と恋愛関係に発展する可能性もあるわけ、ね。でも。
主人にあたるヴィジェスト殿下の恋人と恋愛に落ちる? それって主人を裏切るような真似よね? そんな事を秀才である彼がやるかしら。出世のチャンスを棒に振る? 後も継げない四男が? 無いわ。絶対無い。
でももしそれが有り得るとしたなら、ロズベル様はそれほど魅力的な女性ってことかしら。
それとも主人を裏切ってしまうくらい、恋とは人を狂わせるものなのかしらね。……まぁ考えても仕方ないわね。全てはこれから。
ーーそうしておよそ1ヶ月。学園に入学する日を迎えました。隣国だけど。




