2度目。ーー留学候補の学園と姉の本質を見極める。・4
「それに」
お父様? まだ何かございますか? 強面を更に怖くさせたお父様が一旦口を噤んでそれから諦めたように、仰いました。
「キャスの醜態はイルヴィル殿下の耳に入っているとみて間違いない」
………………。
わ、わ、忘れてましたー!
そうです! 私より年上のイルヴィル殿下なのですから既に入学されているではないですかっ! しかも! お兄様と同い年ー! 前回のケイトリンの人生でイルヴィル殿下から「ルベイオの妹が王家に来てくれる事を楽しみにしていたよ」って仰って頂いていたじゃないですか、私! 何故忘れてたの……こんな大事なこと。
「確かイルヴィル殿下はお兄様と同い年、でしたね……」
「ああ。どうやらルベイオとはそれなりに交流が有るらしい。キャスの醜態を見てはいないようだが、病弱を盾に我儘を言う。妹を貶める。というのは耳にしている可能性があるだろうな」
そうでしょうとも。イルヴィル殿下は第一王子の自覚を早いうちに持ち、更に王太子として選ばれてからは国を揺るがすような最悪の事態にならないように常に情報を仕入れているお人でしたよ! 前回!
とはいえ。イルヴィル殿下のことだからお姉様の失態は「未成人だから」と見逃してくれるレベルのものでしょうけれどね。
あの方は清濁併せて呑み込めるタイプのお方です。綺麗事だけじゃ世の中は回らないことを良くご存知。だから学園に在籍中……しかもまだ入学したばかりだから、と見逃してくれるでしょう。
まぁお姉様の性格が矯正されずに更なる失態を重ねてしまえばお姉様だけでなくセイスルート家も何らかの余波を受けるでしょうから……早めにお姉様には気付いて欲しいですわね。
「この長期休暇でどれだけキャスを躾けられるか、だな。自分もキャスと話し合うが……ケイトは他国留学のつもりで準備をしなさい。もう候補は絞れたのか」
「3校までは」
「分かった。影を3人貸す。詳しい情報を手に入れて決めると良い」
「ありがとうございます、お父様。……ちなみにお姉様の言動を監視する目的で影を学園へ、は?」
お父様が随分と破格の命を出して下さいました。影を3人も貸して下さるなんて! いくら他国の情報が目的とはいえ、所詮学園の内部情報ですからね。貸して頂くにしても1人だと思っていました。3人ならば各学園の内部情報を同時に手に入れられますからね。有難いことですわ。
あと、お父様に提案してみたらお父様が何も仰らない。こういう時のお父様は言わないのではなく言えないのです。おそらく当主としての判断なのでしょう。ですから私は引き際だと判断しました。
「お兄様と兄弟仲を深めて参りますわね」
私はこの場から退出してお兄様の元へ向かう、と言えばお父様の張り詰めた気が緩みました。私の先程の「学園に影を」という発言で一気に空気が変わりましたから言ってはいけないものだったのかもしれませんわね。まぁ私が引き下がったので気が緩んだのでしょう。
知らなくて良いなら知らないことにしておきます。さて、お兄様と兄弟仲を深めつつお姉様の事を尋ねれば、お兄様は重い溜め息をついて教えて下さいました。
ふむ。どうやらお姉様付きの侍女からの報告と変わらないみたいですね。
ではやはり、他国への留学重視で準備をしましょう。お兄様には私が他国への留学を考えていることを打ち明けておきましたので、お兄様は「そうか。その方がいいかもしれないな」と頷いてくれました。
同時にお兄様への負担が少しは減るでしょうか。
お姉様と私の姉妹喧嘩を見せなくて良いのですからね。




