2度目。ーー家族団欒と新たなる不穏な影の足音。
隣国の殿下方が帰られてから1週間。お母様が帰っていらして家族全員が揃いました。
……あの日殿下方が帰られるのと入れ違いに体調を崩して早めに帰宅したお姉様とロイス。お姉様は直ぐにベッドで休まれましたが目を覚ましてから先程までの嵐のような状況を説明し、ついでに忘れかけていたお茶会についても話しました。もちろんロイスにも話はしておきましたけれどね。そこでようやくお姉様はご自分と私が隣国の殿下方の婚約者候補だった事を知ったわけですが。
「私は王子様の妃なんて務まらないから良かったわ! それに私はバートンが好きだもの。ケイトリンなら婚約者が居ないんだしちょうどいいじゃない! 私は嫌だけど身内が王子妃ならその恩恵を受けられそうよね!」
ロイスとお兄様は私を王子妃にさせる気はない、と大反対だったのに対してお姉様は賛成の発言。そういえば……お姉様はこういう方でしたね。身体が弱い所為か少し我儘と言うか甘やかされて育った弊害と言うか自分の欲に忠実でしたね。
そういえば前回はヴィジェスト殿下の婚約者として城に滞在していたので直接は知りませんが、お姉様の甘やかされて育った部分に温厚で心の広いバートンが限界を迎えて婚約が白紙撤回になりかけた事が有りましたね。あれはお姉様とバートンが結婚間近の頃でしたから私が15歳の時でしたかしら。……ああそうです。ようやくヴィジェスト殿下と初顔合わせを果たした頃でした。それから私の方はヴィジェスト殿下に一目惚れした事もあり王子妃教育に益々力を入れてしまってあの一件がどうなったのか、お父様の手紙が来るまで知りませんでしたが……。
「お姉様。私は王子妃など務まらないと思いますし、このお話は既に断っていますわ。ですから恩恵を受ける事は有りません」
キッパリと言えば「なんで⁉︎ 王子妃になって私に恩恵を与えても良いでしょ⁉︎ 姉なのよ⁉︎」と信じられないとばかりに言い募ります。お父様とお兄様とロイスが眉間に皺を作ってお姉様の発言に不快感を表しています。
「キャスベル。もうこの話は終わったことだ。これは自分の決断でもある。反論はあるか」
お父様がお姉様に宣言するとお姉様は不服そうな顔をしながらも何も言わない。それはそうでしょう。お父様はセイスルート家の当主なのですから。当主の発言に正当な理由も無しに否定など出来るわけが有りません。そしてこの場合正当な理由で反論などお姉様に出来るわけがありません。その辺はさすがにお姉様も理解出来るようです。
でも私は2度目のケイトリンです。お姉様の妹も2度目です。こんな事くらいでお姉様が諦めるわけがないと解っています。そうして現在。
寝たきりだったお祖父様が復活されて一段落がついたお母様が帰宅されました。そうです。お姉様の絶対的な味方の帰還です。お母様は私達4人兄弟をきちんと愛してくれているとは思いますが、お姉様が病弱な事でお姉様を不憫に思い甘やかしてきました。お姉様がこんな性格になった要因です。残念ながらお母様ご自身はご自分がお姉様を我儘な甘やかされ娘にしてしまった事に気付いていません。
そんなわけで隣国の殿下方の婚約者候補である私が王子妃になれば恩恵を受けられるというお姉様の望みを叶えてあげたいお母様が、私を説得しにかかってきました。
「ケイトリン。キャスベルの望みなんだから我儘を言わずに聞いてあげなさいな。あなただって王子妃になれば贅沢が出来るわよ」
「要りません。興味ありません。私はセイスルート家が好きですから今の暮らしも満足しています。それよりもお母様がそのように何でもかんでもお姉様が不憫だと思って甘やかそうという事に対して、問題がありませんか」
「何を言って……。あなたはお姉様が可哀想だと思わないのですか!」
「何故? お姉様は確かに身体が丈夫ではありませんが、だからと言って“可哀想”とは思いません。お姉様を不憫だと思うお母様のその言動がお姉様に対して失礼だと思います」
お母様が絶句しお父様とお兄様とロイスが私を驚いたような表情で見つめてきます。お姉様は生意気だわ、と言わんばかりに私を不服そうな顔で睨めつけてきます。ですが私は引く気はありません。お姉様の性格を矯正しておかないと前回と同じ結末を迎えそうな気がしましたので。
ーーお姉様の性格に嫌気が差したバートンは、お姉様との結婚まで2ヶ月ちょっとの頃にとうとう婚約を白紙撤回するように動いて白紙撤回という形になってしまいました。私がお父様からの手紙でそれを知った時には、もう全てが終わった後でした。ヴィジェスト殿下に一目惚れして王子妃教育を頑張っていた自分をこの時ばかりは悔やんだものでした。
あの苦い記憶が蘇ったのですから、私はお母様とお姉様に嫌われようとも正す必要があると思って反論させて頂きました。家族団欒のはずなのにお姉様の言葉一つで新たな不穏が見えてきてしまいました。ヤレヤレですわ。




