2度目。ーー隣国の王子殿下達は猪と狸だと思います。・5
「酷いな」
クスクス笑うノクシオ殿下。
「貴様! 不敬だぞ! 俺の弟に対して! 無礼な!」
と怒るのは当然ドナンテル殿下。そんなドナンテル殿下を見たノクシオ殿下が目をパチリと瞬かせる。まるで珍しいものを見たと言わんばかり。……ああいや本当に珍しいものを見たのでしょうね。ドナンテル殿下は感情表現が豊かで要するに王子としては致命的な方です。隠せないなんて付け入られる隙が有りまくりですからね。でも。逆を言えば素直ということ。つまりドナンテル殿下は本当にノクシオ殿下のことを弟だと思っているのでしょう。
まぁ半分しか血の繋がりはなくても確かに弟なんですが、ノクシオ殿下のこの反応から察するにノクシオ殿下はドナンテル殿下を兄だと思っていないのでしょう。認識はしていても感情はまるでない。対してドナンテル殿下は認識どころか弟に対する情を持っているらしい。
どちらが良いとか悪いとか言えませんけれど、ドナンテル殿下がノクシオ殿下に肉親の情を持っていることそのものは良いことでしょう。但し感情表現が豊かなのは致命的。ノクシオ殿下が感情を微笑みの仮面の下に全て隠すのは王子としては正しいこと。但し全ての情が薄いのは考えものだと思いますけれど。
国王としては家族や友人などに対する情に溺れて国を傾けるわけにはいきません。民を守り愛することこそ王にとって一番大切なこと。けれども私としては家族や友人に対する情が薄過ぎたお方が良い国王になれるのか疑問ではあるのです。非情に徹するだけが良き王とは言えない気がして。
「ドナンテル殿下。弟君に対して無礼な発言を謝罪致します」
「む。……うむ。素直に謝るならばまぁ許してやらんでもない」
「ありがとうございます。しかし恐れながら申し上げます」
「なんだ」
「ドナンテル殿下は感情表現が豊か。それは人としては正しいものですが王になられるにしろなられないにしろ、貴族としては致命的かと。私達貴族が感情を微笑みに隠すのは足を引っ張られないようにという意味合いもございます。殿下もその辺は家庭教師から指摘が有ったのでは?」
「うっ……うるさい! たかが伯爵位の娘ごときに言われることではないぞ!」
「これは失礼致しました。ただその短慮……失礼、感情表現の豊かさを抑えられればかなりドナンテル殿下の将来が変わるような気が致しましたので。戯言とお思いでしたらお忘れ下さいませ」
別に私はドナンテル殿下に国王になって欲しいとは思っていない。ただ今のドナンテル殿下のノクシオ殿下に対する想いは尊重されても良い気がしただけ。余計なことを、という強い視線を向けてくるノクシオ殿下に気付かないフリをしてニコリと微笑む。ノクシオ殿下がまたパチリと瞬きをしたのを見てから口を開いた。
「ノクシオ殿下も恐れながら申し上げます」
「……何かな?」
「ノクシオ殿下は感情を抑え込み過ぎかと愚考致します。あまりに情が薄いのは守るものを人ではなく物として見てしまう恐れがあるか、と」
ドナンテル殿下には具体的な説明をしなくては理解してもらえなさそうだったけれど頭の回転が速いノクシオ殿下にはこれで充分だろう。私が言いたいことが分かったように虚を突かれたような表情でまたもパチリと瞬きをしている。……成る程。この瞬きにこの方の感情の揺らぎが出ているわけね。
でもおそらくこの癖もそのうち直るに違いない。だからこそ、私の言葉が届けば良いのだけれど。隣国の将来を担う二人の殿下。どちらが国王になっても私には関係ないけれど、今の二人が態々仲違いする必要も無いだろうと私は思う。ノクシオ殿下がそれに気付いてドナンテル殿下を排除するのではなく取り込む方に考えが変わるなら、もしかしたら前回のように武器を密かに掻き集めて戦争か⁉︎ と冷や汗を流す必要が無くなりそうな気がしています。
さて。二人の殿下が私の言葉を其々噛み締めている間に玄関先が騒がしくなっています。おそらく殿下方の護衛でしょうね。……あら? お父様とお兄様の声も聞こえていますわ。お二人も帰って来て下さったようです。お出迎えに行こうかしら?




