2度目。ーー隣国の王子殿下達は猪と狸だと思います。・1
髪の解れを直してもらい身支度を早急に整えてくれたデボラに感謝して殿下方が待っておられるという応接間に向かう。深呼吸をしてから中に入って挨拶をした。
「ドナンテル第一王子殿下並びにノクシオ第二王子殿下、初めてお目にかかりますセイスルート辺境伯家の次女・ケイトリンでございます」
カーテシーを決めて頭を下げたまま声が掛かるのを待つ。
「顔を上げろ」
だいぶ不機嫌な声に促されて顔を上げさせてもらえば、先程の声は此方だろうと見当が簡単に付く程不機嫌さを隠そうともしない炎のような赤い髪にピンクの目をした額に縦皺を作った少年が偉そうに踏ん反り返っていた。その隣には同じく赤い髪だけれど暗めで日本で言う小豆色に似たような赤さの茶色い目をした少年が苦笑をこぼしていた。
前回では終ぞお会いする事は無かったけれど前回の記憶から行けばノクシオ殿下を蹴落とすか最悪亡き者にするか迷っている莫迦王子と耳にしていたドナンテル第一王子殿下はおそらく炎のような赤い髪にピンクの目の方だと思われます。性格って中々変わらないでしょうからね。
ということは小豆に似た暗めの髪色に茶色い目の苦笑をこぼしているこちらの方がノクシオ第二王子殿下ということね。
傲岸不遜な尊大な態度を取るドナンテル殿下(推定)と微笑みを浮かべているのに目は私を値踏みするような視線を向けているノクシオ殿下(推定)ね……。どちらも失礼極まりないし私は挨拶をしたのにお二方とも挨拶無し。莫迦にされてますわね、私。先触れも出さず勝手に国境を越えてやって来ただけの莫迦共のくせに随分と見下されている、と思って良いのかしら。それならそれでこちらもそれなりの対応をさせて頂きますわよ?
「失礼。挨拶が遅れました。先触れも出さずに此方へ押し掛けてきた私と兄上を快く受け入れて下さり感謝します。ノクシオです」
私はノクシオ殿下に的を絞って微笑みを浮かべたまま刺すような視線を向けて差し上げました。何の連絡も無しに突然やって来て私を値踏みするなんて失礼極まりないわね、という思いを込めて睨め付けた。その私の視線に驚いた顔をした後今度は本当に楽しげに目を細めてノクシオ殿下がようやく挨拶をしていらっしゃった。きちんと理解が出来て何よりね。ドナンテル殿下は理解していらっしゃらないのか挨拶も名乗りもしないけど。
「それでおそれながら殿下方、私に何の御用でしょうか」
招かれざる客なんだからとっとと用件を済ませて帰れ、と遠回しに言えばドナンテル殿下は傲岸不遜な態度のまま鼻を鳴らし、きちんと意味を理解したノクシオ殿下はやはり楽しそうに笑いながら“用件”を切り出した。
「実は我が国の国王陛下から私達兄弟には隣国の辺境守護者であるセイスルート辺境伯爵家のご令嬢が婚約者候補であるとお伺い致しましたが、先日その婚約者候補の座を辞退してきたと伝えられまして。一体どのような事情が有るのか是非ともお聞かせ下されば、と思いまして」
いけしゃあしゃあとほざくわね! 貴方達の婚約者候補辞退の話からだいぶ時間が経過しているでしょう⁉︎ それを今更何を言っているのでしょうかね!
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