1度目。ーーソウルメイトに出会いました。
ドミトラル様と視線が合った途端、私は前世を思い出しました。オタクの女子高生時代を。あらあらまぁまぁ。前世の私ってばかなり楽しんでいらっしゃいましたのね。マンガにアクションゲームにキャラ育成ゲームにアニメに握手会やらコスプレ撮影会……充実した人生ですわ。羨ましい。そして私が転生したこの世界は乙女ゲームみたいな世界観ですわねぇ。乙女ゲームをやった事が無い私ではこの世界が舞台の作品なんて知りませんけど。
「これはこれは。美しいご令嬢が居たとも露知らず没頭していて失礼しました」
ドミトラル様に声をかけられてハッとする。挨拶もしないで凝視して失礼だわ。慌てて挨拶するとドミトラル様も名乗って下さった。それにしてもドミトラル様って間近で見ると美しいわぁ。殿下と違うまた美しさ。この方はやはり画家というだけあって美術品のような美しさなのよね。……ああやはり。
「スマホで撮って待ち受けにしたい……」
ポロリと呟いてしまった。ドミトラル様が驚いたように目を見開いた表情を見て私は失敗したと悟る。ヤダ。口に出してしまってましたわ! 恥ずかしい!
「えっ。日本人?」
私が慌てて立ち去ろうとするより先にドミトラル様がそんな事を仰るので「へ?」と素で答えてしまいました。
「スマホって言ったよね? 待ち受けって言った。日本人じゃないの?」
「えっ。ドミトラル様も?」
「あ、やっぱり! 君、日本人なのか! いや元日本人だね! 俺はトオルって名前の元日本人!」
あらあら。まさかのドミトラル様も日本人。えー何それこの偶然!
「私はマコトって名前でした!」
「マコトちゃん? マコト君?」
「あ、女です。女子高生だったんですよ! そこで記憶が終わってるから……」
「じゃあ10代で……。うーん。そっか。辛かったね」
ドミトラル様が近寄って来る気配に、私はハッとする。此処は王城。あちらこちらに護衛やら近衛騎士やら侍女やら使用人が居るのが当たり前。
「あ、近寄らない方がいいです! 此処は王城だから何がどうなるか分かりませんから!」
私が小声で諭すとドミトラル様もハッとしたように足を止めて頷いた。それから私が一呼吸置いてドミトラル様に近寄る。
「お抱え画家のドミトラル様にお会い出来て光栄ですわ」
ちょっと大きい声は憧れの人に会えて感極まった感じが出ただろう。令嬢としては、はしたないがまぁ許される範囲だ。それから絵について尋ねているようにキャンバスに向かって話しかけると意図を察したドミトラル様も絵の説明をしているような雰囲気で互いの情報を交換した。
「君さ、ケイトリン・セイスルートって言ったよね?」
「はい」
「辺境伯令嬢のケイトリンってさぁ、第二王子サマの婚約者?」
「表向きは公式発表をしていませんが、そうです」
「うぇえええ⁉︎ 君、悪役令嬢じゃん!」
「はっ?」
ドミトラル様は自分がゲーム会社の社員だったこと。この世界は正しく乙女ゲームの世界ということ。攻略対象は第二王子・宰相の末子・騎士・画家……つまりドミトラル様だ……の4人。そして隠しルートで第一王子。勘弁して下さい。第一王子殿下は王太子になられることが内定してる。乙女ゲームで引っ掻き回されて国が混乱する事になるのは冗談じゃない。
どうにか回避出来ないだろうか。そして私ケイトリンは第二王子の婚約者にして悪役令嬢、らしい。マジか。ヒロインが第二王子ルートに入ると娼館行き。第一王子ルートに入ると国外追放。処刑エンドは無いそうな。
「で、ヒロインはどなたです?」
「第二王子サマの乳母の子でバリフォル子爵家のロズベルだよ」
「あー。じゃあ私は娼館行きが確定しましたか。まぁ死なないならマシか。教養やらマナーやら知識やらは詰め込んでいるし、娼館の中で看板娼婦でも目指すかな」
「えっ? もうルートが決まってるの? 早いな。ゲーム開始は第二王子とロズベルが16歳になってからだよ?」
「ヴィジェスト様とロズベル様は既に相思相愛の恋人同士です。だからこそ私は婚約者として公式発表されていないのですわ」
「マジで⁉︎ ゲーム開始前に攻略済みっていうことは、此処は似ているけど別の世界なのかもね!」
「別の世界というより現実の世界だからゲームとは違うのでは?」
「成る程。そういう考え方か。でもそれならケイトも娼館行きにはならないかもね。だってゲーム開始されてないんだから断罪されようが無いじゃん。ゲームじゃケイトはロズベルに嫌がらせするけど、ケイトはそういう事をしない気がするから断罪なんて無いでしょ」
ドミトラル様はカラリと笑われた。
ゲーム開始前に攻略済みのヒロイン。ケイトリンはゲーム時第二王子の婚約者としてロズベルに近づくな、と嫌がらせをする悪役令嬢でした。