2度目。ーー帰宅したのに他所様の家に来た気がします。
セイスルート辺境伯家に帰って来ました。日帰りなのに数日間帰って来なかった気持ちにさせられているのは、それだけ疲れたからでしょうか。デボラと共に屋敷に入れば誰も居ません。えっ? 誰も? 何故? 先触れ出したわよね? せめて執事は出迎えてくれるかと思いましたが……。私一応お嬢様でしたわよね? セイスルート辺境伯家に帰って来たと思いましたのに間違ったかしら……。そんなことを思っていれば奥が何やら騒がしい気がします。デボラと顔を見合わせて奥へと足を向けようと思った矢先に極力足音をさせないで執事が走って参りました。あら珍しいですわ。普段の冷静沈着さを何処に落として来たのかしら。
「お嬢様! お帰りなさいませ!」
「只今帰りました。何かありましたの?」
「その説明は後程。今はとにかくお部屋にお戻りを」
相当焦った執事に背中を押されて私もデボラも首を傾げながら足を進めます。本当にどうした事でしょう。自分の家のはずなのに他所様の家に来たような疎外感が満載なのですが。とにかく部屋に戻って執事から説明をもらう必要がありますわね?
そんなわけで慌ただしく部屋に戻った私はそのまま室内に入って来た執事を振り返る。執事は私の部屋の鍵をかけました。念入りですわね。……何か余程の事態が起きたのかしらと思って緊張しながら執事の言葉を待つと。
「改めて、お嬢様。無事にお帰り下さいましたね。お茶会はいかがでしたか?」
そんなことを言われました。説明を直ぐにしない所から察しますに緊急事態ではないのでしょう。考えてみればまぁ我が辺境伯家に緊急事態など奇襲攻撃くらいなものです。そして奇襲攻撃をされればすぐにウチは報復に出ますわ。という事は事情はあるけど報復するような代物では無い、ということですか。
「お茶会ですか? 取り敢えず招待を受けていらっしゃった皆様は同じくらいの年齢でも既に足の引っ張り合いが激しくて流石王都の貴族令嬢様でしたわ。ヴィジェスト殿下との交流は特に何も。あれはどう考えても婚約者探しでしょうけれど私は王子妃に興味なんてないですもの」
「流石はお嬢様でございます」
「ところで何があったの?」
執事の褒め言葉に鷹揚に笑って私は尋ねました。
「それが……。昨日初めて旦那様からお伺いしたのですがお嬢様は隣国の王子方の婚約者候補だとか」
「ええ。お父様に私に婚約者が居ない理由を尋ねた時にお伺いしましたわ。それが? というか何故昨日?」
「お嬢様がお茶会に出かけられるので準備にバタついていましたから誰もお嬢様にお伝え出来なかったのでございますが」
やけに勿体ぶってしかも遠回りな口調。なんですの一体。
「隣国から第一王子殿下及び第二王子殿下がお忍びでこのセイスルート辺境伯家にお越しになられました」
「…………。は?」
咳払いを繰り返した執事のその発言に私は時が止まって令嬢らしからぬ低い声での問いかけをしてしまいました。取り繕う気にもなれません。
「ドナンテル第一王子殿下とノクシオ第二王子殿下が? 我が辺境伯家に?」
私は多分間抜けな表情を執事に晒していることでしょう。




