2度目。ーー初回でお声掛け頂いたので引導を渡します。
「お父様? こちらのフォーメル伯爵様を玄関先で応対するのは失礼ではありませんの?」
なんで来たのか分からないけどって顔を見せながらお父様にお伺いを立てるとお父様は渋々応接間に通されました。フォーメル伯爵様は微かに頷いてますが別にフォーメル様のためでは有りませんよ? こんな所で王家の使者を追い返したらお父様が悪し様に言われてしまいますもの。フォーメル様はアレコレ人の悪口を仰る方では有りませんが何時何処で何方かが聞いていらっしゃるか分かりませんものねぇ。
うふふ。足の引っ張り合いは皆様大好きですもの。ーー己の身に火の粉が降りかからなければ。
さて。応接間に案内する間に侍女にお茶の支度を頼み私は引き下がる事と致しましょう。
「ケイトリン嬢、待ってくれないかな」
挨拶のためのカーテシーを遮るフォーメル様。ゆっくり顔を上げて不思議だという表情で首を傾げた。
「何か」
「君の将来の事で。まだ婚約者がいらっしゃらないだろう? どなたかとご結婚されるのなら素晴らしいお相手が居るのだが」
……あらあらまぁまぁ。まさかの初回でお声掛け頂きましたわ。でもこの際きっぱりとお断りしてしまいましょう。
「フォーメル伯爵様。私のようなまだ淑女とも呼べぬ娘に対してもお気遣い痛み入りますわ。ですが、私はセイスルート辺境伯爵家の娘でございます。我が家が当主を決める際に必要な事は何かご存知でしょうか」
年上であり伯爵家当主であり王家の使者も担ったこの方に対して上から目線の発言は不快で不敬だと思う。でも此処でブレて相手の機嫌を窺っているなど私には出来ませんわ。
「確か独特な……志を強く持つ者、だったかな」
「左様でございますわ。当主になる条件はそれただ一つのみ。男女の性別すら我が家では無用のもの。事実過去には女性が当主として立ったこともありますわ」
「つまり、ケイトリン嬢は当主を目指しているから嫁ぐつもりはない、と?」
「私が跡継ぎに決定しましたら婿を取らなくてはなりませんもの」
「跡継ぎにならなかった場合は?」
「恐れながら私はそのような仮定をしながら辺境伯爵家の娘を務めておりません。ですからその時になってみないと分かりませんわ」
跡継ぎにならないかもしれない仮定で行動などしていたら志にブレが出来るだろうからそんなことは何も考えていません。と言外に告げた。フォーメル様、苦笑いですわね。ですが私の発言は正論だとご理解頂けたようで溜め息をつかれました。
「ではあなたは婿入りならばともかく嫁ぐことは欠片も考えていないということですね?」
最終確認なのだろう。強い口調と目で私を見て来ました。
「はい。恐れながら。嫁ぐ気はありません」
その視線を受け止めて否定を示せば残念だ、という表情で首を軽く振って「分かった」と仰いました。同時に暇を告げられ帰られました。あら、アッサリと帰られましたね。




