2度目。ーーその人と会うのは、実は初めてでした。・7
昨日に引き続き大変遅くなりました。
「随分餌を撒いたわね?」
会談した部屋からの帰り道、タニアさんが私に聞いてくる。
「信用を得るって長い間の積み重ねじゃないですか。でも短い期間に信用を得るとしたら?」
「成る程。取り引き、ね。そういう意味では私達の話も上手く取り入れて取り引き材料にしたわね」
今日のタニアさんの格好は男性バージョンと言うべきか、女装でない事は確か。そんなタニアさんから女性のように柔らかい言葉が聞こえてくるけれど、何の違和感もない。中性的な雰囲気だからアッサリと受け入れられるのかもしれない。
「辺境って隣国との小競り合いもあるんです、ご存知ですか?」
「まぁこれでも貴族の端くれだし」
「その小競り合いもずっと続くわけじゃないんです。どう終わらせるか解ります?」
タニアさんは意表を突かれたような表情をしてから考え込む。
「勝てば良いってわけじゃない?」
タニアさんの質問に頷けば、まさか……という顔で正解を導き出した。
「まさか。交渉?」
「その通りです。ある程度こちらの手札を見せつつ、向こうからどれだけの手札を切らせられるか。そういった駆け引きが出来ないと、小競り合いに勝つだけでは足元を見られます」
「武力なら純粋に勝ち負けが決まるのに?」
「だから、ですよ」
と言っても私もあまり詳しくは知らない。知っているのは、武力で勝負の決着はついても言いがかりを突き付けられる事がある、ということ。そしてそんな言いがかりを論破出来ず形勢が不利になってしまった事があった、と以前お父様に聞いた。それ故に交渉力を身につけた、とかなんとか。お父様が、ということは……無いな。うん、無い。
だから誰かが交渉に向いているんだと思うんだけど……。交渉事に向いているって誰だろう。まぁ影だよね、絶対。
「成る程。取り引き材料提げて落とし所を作るわけか。それなら確かにどんな情報も手に入れたら切り札にするよねぇ」
タニアさんはやはり頭の回転が良くて直ぐに意図を見抜いてくる。こういう人との会話って楽しいけれど、気付くと根こそぎ情報を引っこ抜いていく容赦無いタイプが多いから、気は抜けない。ある意味良い緊張感を持たせてくれる。但し。
敵に回したら怖いから敵に回したくないけどね、絶対!
次回マリベルさんやドミーとタニアさんに会うのは、いつになるやら見当もつかない。とはいえ、あまり長引かせたくないのも事実。とっととロズベルさんと話をして、ヴィジェスト殿下からの伝言を伝えて、何も気にせずに晴れて楽しく学園生活を送りたい。
その中でドミーとデートもしたいし、友達と楽しくウインドウショッピングしたいし、限りある学生生活を充実して過ごしたい。そして。いつの間にか18歳を過ぎていて、学園を卒園して大人になって……ドミーと結婚したい。けど、私は辺境領が大好きで。卒園したら間違いなく辺境伯領へ帰ってあの地を守るだろう。
その時、ドミーは一緒に辺境領へ来てくれるかしら。あの地を見守ってくれるかしら。
そんな事を考えながら無意識にドミーを見てしまったらしい。視線がバチッと合った。驚いて直ぐに逸らす。えっ⁉︎ なんで⁉︎ なんでドミーと視線が合ったの⁉︎ 偶然か、ともう一度そっと見れば、またも視線がバチッ。
これはもしかして偶然ではなくて、私を見ていた、とか⁉︎ 何がなんだか……。“私”を見ているのか“私”ではなく別の“何か”を見ているのか……。いえ、ドミーのことです。私以外の誰かを見ているのだったら迷いなく私に話してきそうですし。変な事を考えてしまいましたわ。
でもドミーの視線が外れない事は気付いたので何か言いたいことがあるけれど言えない、のかもしれません。
でも取り敢えず今日の所はこれ以上何も出来ません。私は学園へと、足をむけた。
やけどは水ぶくれとなり……気付いたら水ぶくれの皮が破けて地味に染みてます。痛い。




