閑話・2度目。ーー今度は否定せずに向き合ってみたいと思う娘。
ヴィジェスト視点のお話です。
ケイトリン8歳なので当然彼は6歳です。
あのガーデンパーティーから1年後。私はロズベルと共に処刑された。ロズベルは隣国の国王陛下から見て叔父の娘だった。最初からそれを父上に申し上げていればまだ対応が違っただろうに何故かコッネリ公爵の養女という身分を手に入れたことで我が国に含む所有り、と思われた。ロズベルがそんな含みなど持っているわけがない、とは思ったがそれを否定する材料などなかった。その上コッネリ公爵は養女として迎え入れたロズベルをアッサリと切り捨てた。表向きは「まさか養女のロズベルが我が国の前王弟の娘などとは知りませんでした」という白々しい言葉と共に。私の中で憎しみの対象になった。そして肝心のロズベルだが……。処刑までの間、牢に私もロズベルも入れられていたのだが隣同士だった。それなので私はロズベルを慰めようとしていたのだが……何やらブツブツとこぼしていた。まるで気狂いになってしまったかのようにずっと。私はそんなロズベルが痛ましくてせめて何を言っているのか聞いてあげるべきか、とその呟きに耳を傾けていた。すると聞こえて来たのは……
「こんなはずじゃなかった。えっ? なんで? どこを間違ったの? ヴィジェスト推しだったから早くから攻略しようと思ったのが間違い? やっぱり学園に行くまでゲームをスタートしてはいけなかった? いいえ、それよりやっぱりケイトリンが悪役令嬢として機能しなかったから? アイツ私のことを知っても虐めも嫌がらせもしてこなかったものね。でもあのゲームにこんなバッドエンドなかったはず。バグ? リセットボタンはどこなの? やっぱり学園に行ってからヴィジェストを落とさなくちゃダメだったかしら。でも悪役令嬢ってば学園に入学しなかったのよね。アイツが入学しないからケイトリンに虐められたの。って嘘をついてヴィジェストを惹きつける事も出来なかったし! ああもう! 私がヒロインなのに、なんで私が処刑なのよ! こんなバッドエンド知らないわ!」
……ロズベルが言っていることは殆ど分からなかった。だが分かる言葉から繋げてみるとどうやらロズベルはこの状況をゲーム……つまり遊びだと思っているらしい。処刑される恐ろしさで現実が見えていないのかもしれない、とは思ったがそれにしては私を落とすと言っていた。という事はもしやロズベルの思う遊びとは私を自分に惚れさせる……つまり落とすゲームということか? だがケイトリンがあくやくというのは分からない。ケイトリンは辺境伯家の令嬢だ。あくやくとやらの意味が分からない。そしてケイトリンに虐められたと嘘をつこうと考えていたことまで分かった。ケイトリンは既に学園での勉強を入学前に終了していたから入学する意味を為さなかったというのに。
なんだかロズベルが恐ろしく思えた。私が愛したロズベルはもしや気狂いが演じる幻だったのでは……と。そう思いながら私とロズベルは処刑された。
……と思ったら目が開いた。はっ? まさか処刑される日が違って未だ牢に入っているのか? と考えたがそれにしては柔らかいベッドに身を横たえている。どういうことだ? と上半身を起こせばやけに身体が小さい。ベッドから降りるのも一苦労で唖然とする。姿見の前に立って更に唖然とした。
ポカンと口を開いている幼い私が鏡に写っていた。
本当に幼い。5歳くらいだろうか。……5歳? そして私の記憶はしっかりとあの処刑まではっきりしている。これは一体どういうことなのだろう? 室内は私の、第二王子・ヴィジェストの部屋なのは間違いない。それならば私は記憶を持ったまま幼い頃に戻った? いや、そんなまさか。莫迦みたいな事が起こり得るのか⁉︎ だが、もし私が考えている事態だとしたら……?
ーーそうだとしたら私は、今度はロズベルではなく私の婚約者となるケイトリンと向き合うことが出来るかもしれない。
私を身を挺して庇ってくれたあの娘と。
それ程までに私のことを考えてくれた彼女と向き合えばもしかしたら私は本当の愛情というものを彼女と育めるかも、しれないーー。




