2度目。ーー何故もっと早く動かなかったのでしょう。・5
昨日の更新で、ケイトリンがジュスト・ボレノーをボレノー様ではなく、ジュスト様呼びをしていましたので、訂正しました。
友人であっても「ボレノー」呼びが普通なのに、「ジュスト」呼びをさせていてすみませんでした。ジュストから名前で呼んで欲しいと言われない限りは、「ボレノー」呼びです。
作者が混乱したことをお詫びします。
とにかく今は辺境伯領に帰る事が先決。それから隣国のその後の様子をお父様から聞かせてもらって、一度シオン帝国へ行く方がいいかしら。数日滞在してから改めて入国する? いえ、でも。タータント国からシオン帝国へ行くには馬車で片道15日はかかる。急がせても1日か2日くらい短くなるだけ。いくら今が長期休暇中でも往復30日もかかるような場所に一度行ってみる、なんて気軽にはいかないわね。それよりも留学初日より20日程早く出立する方がいいわね。
「お嬢様? また何か考えていらっしゃる?」
デボラに問われて私は苦笑しながら考えていた事を話した。
「そうですね。シオン帝国の様子を見ておく方がいいでしょうし、シオン帝国の学園も寮生活とはいえ、確か入寮出来るのは3日前からでしたね」
「ええ。だからシオン帝国について数日は宿にでも泊まって雰囲気を掴んでおきたいわ。それから入寮したい。出来れば初日までにボレノー様にお会いしたいわね」
「ではその旨をボレノー家へ言付けされますか」
「そうね。後で従僕に手紙を持って行ってもらうわ」
緊急時は影を頼むが、基本的に手紙の遣り取りは従僕を頼む。影を表で動かすものではないのだから。
「かしこまりました」
「それと少し寝させて」
私が馬車の中で眠るなんて事は無かったから、デボラが驚いた顔をしたが、軽く頷くのを見て私は目を閉じた。……探すと決めても、未だドミトラル様が行方不明になっている、と聞かされたショックが尾を引いているのか、何も考えない時間が欲しかった。
「……様。お嬢様」
ウトウトくらいの感覚だった私の耳にデボラの声が聞こえてくる。起こして欲しくなかったのに、何かあったのかしら。緩やかに目を開ければデボラが困ったように微笑んで「邸に着きましたよ」と告げる。
「もう?」
「かなり眠っていらっしゃいましたからね」
どうやらそんなに寝ていない感覚だったのに、実はグッスリと寝入っていたらしい。あまり寝られるとは思っていなかったのに。
ドミトラル様が行方不明になっているなんて聞いて心配で。ガッツリ寝られるわけ無いじゃないって思っていたのだけど。実はグッスリ寝ていたなんて恥ずかしい事この上ない。心配で眠れない、とか、ご飯が喉を通らない、とか。そんな乙女な思考も言動も私は出来ないみたいで。……やや複雑。
いやでも、これが私。今更そんな女の子らしい言動も思考も出来ないんだし、仕方ない。ドミーだってそんな私も私らしいって言ってくれるはず! ……言ってくれるだろうけど、それと私が恋愛対象というか結婚相手になるかどうかは、別、よね。
この世界、恋愛結婚もあるけど、高位貴族は政略結婚が多目だし。その場合は恋愛対象にならずとも結婚はするわけだし。もしや、私とドミーの場合も恋愛対象にならずに結婚だけって事もあり得る? その場合……妻の座は手に入れられても愛妾を囲われたら、どうしようもない。
だって恋愛と結婚は別だから結婚してからが寧ろ恋愛の本番みたいなものだし。……やっぱりちょっとでも可愛い女の子を目指すべきなのかしら。この世界のそういう考えを理解はしても、日本人の記憶があるからか、受け入れられないのよっ、私! 結婚相手とは相思相愛で居たい!
「お嬢様、何を考えていらっしゃるんですか?」
いつの間にか邸の玄関ホールにいたようで、執事が声をかけてきた。どうやら私の「ただいま」という挨拶をずっと待っていたのに、中々挨拶が来ないから心配されてしまったようです。ーー恥ずかしい。
「ちょっと色々と、あったのよ。ごめんなさいね。ただいま」
咳払いしてお嬢様の自分を取り戻した私は、改めて挨拶をした。




