2度目。ーー蜥蜴の尻尾切りなんて、させない。・9
「では」
「何で勝負する?」
カードゲーム(前世で言うトランプです)がこういう場合は有効なんですけどね。イカサマをされても困るのでナシです。
「デボラ、いるでしょう?」
私の声に反応してデボラが現れました。気配に気付いていたのもそうですが、やっぱり私に忠誠を誓った者ですからね。命じていない限りは私の側にいるだろうと思ってましたよ。
「お嬢様、何か」
「貴方が持つ毒薬を準備して頂戴」
「ええとどれがよろしいでしょうか」
「速攻性と遅効性の両方よ」
デボラが言われた通り出してきたその包みは、デボラ以外、どっちがどっちなのか判らない。
「執事さん。デボラからそれを受け取って私と公爵様のティーカップに入れて下さる?」
私の発言にコッネリ公爵がハッとした表情を見せた。
「どちらが速攻性か分からないという事は速攻性が入った方が負け、ということか?」
「ええ。もちろんデボラはどちらの毒薬にも対応出来る解毒剤を持っています。ですから死にはしません。死ぬのはまた改めて、ということで」
「いいだろう。見た目が同じ薬包である以上どちらが速攻性なのかはそこの小娘以外は分からないわけか」
見た目は同じ薬包ですけどね。デボラにしか分からない判断方法があるそうです。だからデボラならば解毒剤も正しく投与してくれます。
さぁ確率は1/2です。毒薬を飲ませる形にしたのは、もちろん前回の最期に毒を塗ったナイフを使われた私の意趣返しですよ。私も毒を飲みますけど、どちらの毒薬を使われてもデボラなら間違いなく私を助けてくれますからね。信じているから怖くないのです。
「では、1.2.3で同時に飲みましょう」
「飲んで直ぐに倒れた方が負けだな」
「「1.2.3」」
私とコッネリ公爵は同時に毒の入ったお茶を一気に飲み干した。ティーカップをソーサーに置いてテーブルに置くまでの間に、コッネリ公爵がゆっくりと倒れていきます。
「私の勝ち、ですね」
遅効性のため未だ全身に毒は回っていませんので、私は余裕です。コッネリ公爵は苦悶の表情です。デボラに視線で解毒剤を投与するように命じます。というか、主人がこういった目に遭っているというのにこの執事も取り乱さないんですよね。普通慌てるでしょうに。
「随分と悠長ですね。心配ではないのですか」
「主人がそうとは理解せずに、愚かな事を仕出かしたのなら諫めますが、今回、主人は己を愚かだと理解している。ならばこちらが諫める事は出来ません。どのような事が有ろうとも最後まで見届けるのが私の務めでありましょう」
私の皮肉混じりの発言にも眉一つ動かさずに言ってのける。本来執事とはこういうもの。とても優秀な人材だと理解した。
デボラの解毒剤を投与されたコッネリ公爵を執事に頼んで、私もデボラから解毒剤をもらう。遅効性だから遅いというだけで毒は毒。解毒しなかったら死ぬ事はないにしても、身体中が麻痺して動かないまま残りの人生を過ごす事になりかねない。
そして毒である以上、どういった後遺症が出るのか分からない。もしかしたら将来的に子が産めない可能性もある。……ドミーに再会したらその辺をきちんと話しておこう。それで私を選んでもらえないなら。
嫌だけど。凄く嫌だけどドミーを諦めて身を引こう。
それが解っていても、この男との決着に毒を使用した事を私は後悔していない。




