2度目。ーー蜥蜴の尻尾切りなんて、させない。・7
さて。このコッネリ公爵とどうやって同じ場所に立たせようかな。なんていうんだっけ。同じ舞台に立つ? 違う気がする。うーん。前世で聞いた気がしたんだけど……なんだっけ。まぁいっか。とにかく同じ位置に立って勝負を仕掛けようじゃないの!
「ふむ。セイスルートの私兵か。セイスルートは気に入らんが腕の立つ者は良い。こちらに来ぬか」
コッネリ公爵がクルスに声をかける。
「申し訳ないですが、その者はお父様ではなく私に忠誠を誓っていますの。ですから私の意思無くしてコッネリ公爵の配下にはなりませんわ」
「小娘如きに忠誠だと? クッ。笑わせてくれる」
そうそう。コッネリ公爵はやはりこうでなくてはね。これなら叩きのめし甲斐があるし、失脚もしてもらい甲斐があるというもの。
「あら。先程も言わせてもらいましたが、私はお父様の娘ですの。コッネリ公爵を笑わせられる程の技量は有りませんわ」
「……そうだったな。では事実か」
「もちろんですとも。しつこく言わせて頂きますが、冗談を言って笑わせられる技量は有りませんわ」
真顔になったコッネリ公爵を真っ直ぐ見据えてやれば、クククッとまた笑い声を上げて「面白い」とこぼす。同時に空気が変わりこの場がコッネリ公爵に支配された。肌に突き刺さるような濃厚な空気ーー呑まれそうになる。
成る程、これが私のお父様に煮湯を飲ませた男の本領か。
でもーー残念。
「ふん。あの男の娘だな、やはり。これくらいでは引かぬか」
「ええ」
にっこりと口元だけで笑ってやる。前世と前回と合わせて30半ばにプラス14歳の私です。精神年齢が殆どコッネリ公爵と同い年なんですよ、私。そりゃ20歳も超えた事ないですが、それでも無駄な人生を送ったとは思ってませんから。大体前世日本人だった私はですね、オタクだったんです!
それも血湧き肉躍る少年マンガの方が好きだったんですよ! こういう時は冒険マンガやスポーツマンガの主人公を思い出せばやり過ごせるんです! こういう時こそ主人公は不屈の精神で立ち向かうんです。私をそこら辺のご令嬢方と同じか弱い精神をしているなんて思い込みも良いとこなんですよ!
前回だって貴方に負けましたけど、でもそれはヴィジェスト殿下を庇っての事だし。いや未だに怖いとは思いますけど。でも今こそオタク魂に火を付ける時です! 不屈の精神で強大な敵に立ち向かう。これこそが少年マンガの醍醐味ではないですか? 勇気と友情は美しいっ。
「我が娘や姪は役にも立たんがお前はかなり見込みが有りそうだ。どうだ、このコッネリ公爵家に養女として入らないか」
「何を馬鹿げた事を。私はセイスルート家の娘ですわ」
「隣国の辺境伯程度で殿下方の婚約者になるのは陛下が許しても我が国の貴族共が黙ってはいないぞ」
ああ、私が殿下方の婚約者の座を欲していると思っていらっしゃるのか。
「私が仮に殿下方の婚約者の座についたとして、貴方に何の益が有ると? 既に公爵という貴族の中での最高位にいらっしゃる。しかも宰相位も持っている。これ以上権力に執着すれば要らぬ政敵を増やすだけでは?」
私の指摘にコッネリ公爵はフンと鼻を鳴らすだけ。……まさかとは思うけど、いや、きっと……そう、なんだ。私が養女になって殿下方どちらかの婚約者になる事で陛下に認めて欲しいんだ、自分の存在を。
何が原因で陛下に憧れててどうして拗れたのか知らないし、知りたくもないけど。
そんなんで殿下方を軟禁状態にしたり、姪や娘を誘拐みたいな状況に置いたり、裏で糸引いて国を混乱に落とすようなアレコレをするなーっ!
心の声ですけどね! 言いたいけど、今じゃない。折角のチャンスですからね。この男を失脚させるのが先決です。




