閑話・1度目。ーー暁に浮かぶ勝利の女神。・2
引き続きドナンテル視点です。
合図が来た。
どの令嬢達を相手にしていても、ケイトリンを常に視界の端に入れていた俺とノクシオは、同時に合図に気付く。それはコッネリ公爵が俺達の婚約者として推して来た娘が現れたということ。ノクシオに「俺が行く」と伝えれば一瞬羨ましそうな表情になったが、分かったと頷いた。
俺とノクシオでは令嬢達もノクシオの婚約者の座が欲しいのだろうと思う。それが他国の王女殿下達ならば尚更だ。何しろノクシオは第二王子だが王太子なのだから。つまりノクシオの婚約者ということは結婚すれば未来の王妃ということ。俺より熱心にもなるだろう。
そんなわけで体のいい言い訳でその場を離れて、ケイトリンの後を追えば学園の中庭に居る。何を話しているのか解らないが、表情からは暁の女神の話を思い出した。
暁の女神とは、この世界の神の一柱で。戦の女神とも呼ばれる。夜明けを表す意味合いから戦では勝利の夜明け(奇襲は夜戦が多いからだろう)に通じて戦の女神とも呼ばれるようになったのだろう。
つまり、今のケイトリンは、何かを覚悟して戦う事を決めた人間の表情に見えた。そんなケイトリンの表情は、神々の話の一つである暁の女神を思い起こさせるものだった。
コッネリ公爵の“娘”とされる者と対峙しているケイトリンは、コッネリ公爵を倒す決意をした、ということか。彼女にこんな顔をさせた娘に少し苛立ちながらも、俺はようやくケイトリンに声をかけた。
「ケイトリン」
「ドナンテル殿下」
決意を秘めた顔に笑顔を浮かべて俺を見たケイトリンは、暁の女神が存在しているかのようで。まだ暫くはケイトリンを諦められそうにない事を突き付けられつつ、視線で状況説明をしろ、と促した。
「ドナンテル殿下、こちらはプライアリ・コッネリ公爵令嬢様。コッネリ公爵の5女だそうですわ。プライアリ様、ご存知かと思われますが、第一王子のドナンテル殿下ですわ」
互いを引き合わせて紹介するケイトリンに合わせて会釈する。プライアリと呼ばれた娘は、正しく礼を取って名乗る。コッネリ公爵の教育の賜物というやつか。だが、俺を見た娘の顔は顰められたのを見逃していない。……コッネリ公爵が満を侍して送り出して来た娘のはずなのに、表情すら取り繕えないのはマズくないか? 本当にこの娘がコッネリご自慢の令嬢なのか?
取り敢えずその辺は口にせず(当然だが)挨拶を返した俺は、ケイトリンから彼女の境遇を聞かされ、プライアリ嬢からの依頼でコッネリ公爵を失脚させることにした、と話してきた。元々コッネリを失脚させるつもりではいたが、彼女の境遇を聞かされて益々その気になった、ということか。確かにそんな話を聞かされては俺も同情してしまう。
一方で、このプライアリ嬢が嘘をついていないとも限らない。こんな気を引くような身の上話をしてきて、こちらの同情心を煽って仲間に引き込むフリをして、こちらの牙をもぐ……ケイトリンを排除しようとしている、と考えていてもおかしくない。
ケイトリンもおそらくその辺の事は考えているのだろう。それでも元々コッネリを失脚させるつもりで動き出しているのだから、彼女の話を真実として受け取って止めるつもりはないのだ、と気付かされた。それならば俺達もそのつもりでやる。ケイトリンだけに任せる気はないのだから。
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