閑話・1度目。ーー暁に浮かぶ勝利の女神。・1
ドナンテル視点です。
此処は学園の食堂。先程まで講堂を借り切って婚約者候補者達へ説明をしていた。その後此方に移動して交流会を開催している。候補者達の中には他国の王女殿下や高位貴族の令嬢方もいて、俺とノクシオはそのお相手も務めていた。
本当は候補者達の中から10人前後が真の婚約者候補者なのは、父上と俺とノクシオしか知らない。当然その中にケイトリンがいる……わけじゃない。ケイトリンは外されている。身分に問題無いし、留学してくるほど学力もある。淑女としても手芸以外は完璧だし、相手の心理を把握して翻弄するのもお手の物で、王子妃に向いている。それでもケイトリンが俺とノクシオの筆頭どころか婚約者候補者からも外されているのは。
ケイトリンに愛する男が居る。
その現実を知ってしまったからだ。俺もノクシオもケイトリンが好きだ。だからこそ本気で自分の妃にしたい、と2人共に望んでいた。今でも、望んでいる。けれど彼女がケイトリンの人生をやり直している、と聞いた俺達は……ケイトリンが1度死ぬ事になった原因を知って、一旦引き下がる事に決めた。
俺達を軟禁状態に追い込んだコッネリ公爵が、ケイトリンの1度目の死に関わっている。
その事実を知った衝撃は……ケイトリンにも解らないだろう。俺とノクシオにしか、この気持ちは解らないはず。俺達が好きになった相手は、1度死んだ。この事実を俺達は疑っていないし真実だと思っている。ケイトリンがこんな嘘をつくわけがないからだ。
そして。その事実を踏まえた上で考えれば自分達の甘えに気付かされた。たった18歳でその命を終えたのに、もう一度生きる事が許されたのに、俺達の所為で彼女は自分が死んだ原因になった男と対峙して、俺達を助けようと足掻いて。そして今、戦おうとしている。
ケイトリンは強い。
きっと証拠はなくともコッネリ公爵に殺された事を確信しているはず。
それは恐怖だろうに、俺達のために正々堂々と戦ってコッネリ公爵を失脚させようと企んでいる。そんな姿を惚れた女に見せられた俺達が、彼女を妃になど迎えられるわけがない。
ーー今の俺達では、彼女に甘えるだけだ。
そんな俺達の妃になってしまったら、彼女が苦労する。本来なら俺達が自力で何とかしなくてはいけないコッネリ公爵を、彼女に縋るしかない現状で。そんな俺達が彼女に惚れてもらえるとは思っていない。その上彼女は1度目の人生で出会った男を、今も好きで居続けているらしい。2度目の人生では出会ってもいないということなのに。
だったら……とノクシオと2人で話し合った。彼女を婚約者候補者から外そう、と。今の俺達では彼女に振り向いてもらえないどころか、その目に“友人”として映っても“男”として映らない。彼女が惚れた男が現れるまでに男として映してもらう。その時に改めて筆頭婚約者候補者の座についてもらって、俺かノクシオを選んでもらおう、と。
だが、表向きは筆頭婚約者候補者のままだ。俺とノクシオと父上だけで、ケイトリンが筆頭どころか婚約者候補者ではない立場に決めた。3人だけの秘密だ。再びケイトリンをその座に着けた際には、俺達は彼女に全力で愛を乞うため、今は婚約者候補者の座からも降りてもらっている。
それでもケイトリンに振られた時は、他の者を妃に迎えねばならない。ケイトリンの代わり、などと失礼な事にならないように、吟味に吟味を重ねて婚約者候補者を10人前後選んでいる。どの方を選んでも、選んだ相手を大切に出来るように、現在俺達は婚約者候補者達と交流をしていた。
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