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1度目。ーー志が強いからこそ跡取りに決めていた娘。

父親視点。

隣国から使者がやって来た。常ならば隣国からの者は我がセイスルート辺境伯爵領を通って行くのだが相手はあのコッネリだから此処は通らない、と判断して隣にあるマリルカ辺境男爵領に警戒するよう伝えておいた。あのコッネリは公爵という地位だけでなく隣国で影の支配者とも呼ばれる程の権力と小賢しい知恵を持ち自分を2度も罠に掛けたような男だ。何を考えているのかも分からず行動も読みにくい。だからこそ警戒するように頼んでおいたのだが。その裏を掻いてセイスルート領を通過したと知って悔しさに唇を噛んだ。油断していたつもりは無いが堂々と商人の格好で通って行くとは思ってもみなかった。怪しげな商人の話を部下から聞いてコッネリだったか! と地団駄踏んでももう遅い。とにかく後を追うためにもさっさと領主としての仕事や後の事を任せる調整を行い王都へと馬を走らせる。ケイトに付けた影のクルスから定期的に報告を受けていたのだが。その定期的な報告でクルスがケイトの側を離れている間に最悪の事態を王家からの使者によってもたらされる。王都へあと1日というところでその使者が自分の前に現れ言うのには。


「ケイトリン・セイスルート辺境伯令嬢が他界されました」


「ーーは?」


何を言ってやがるこの使者、と睨み付けてやれば使者は震えながら状況を話した。


「馬鹿野郎! ケイトがナイフ如きで死ぬかっ!」


ケイトは辺境伯家の者として男女別無く武芸を叩き込まれた娘だ。それも跡取り娘だった。我が辺境伯家は辺境地の中で一番地位が高い。それ故に隣国を含める他国が我が国を侵略しようものならばセイスルート家を攻略せねばならない。また王朝によっては王位争いや内乱まで起こった時代もあった。そんなものに巻き込まれて辺境地を蔑ろにしたらあっという間に他国に侵略される。

だから我がセイスルート家は王家に忠誠を誓わず国(土地)と民を守るだけに徹していた。セイスルートの名前以前の当主達も含めどの国王の代にも王家に忠誠を誓った事などない。それが代々の誇りでもあった。そんな我がセイスルート家の跡取りを決める方針はたった一つ。志の強さだけ。最も志が強い者が次代の辺境伯爵だ。


国と民を守る


ただそれだけの意志を見せつける強さ。これが簡単だが難しい。いつから次代の選定を始めるかなどは現当主以外知らないし現当主も話さない。赤ん坊の頃だけは有り得ないがそれ以降は気を抜いてなどいられない生活だ。いつどこで選定が始まり審査に落とされるのか誰も分からないのだから。次代になりたい者は気を抜けない。同時に様々な誘惑にも負けてはならない。例えば美食。例えば性的な欲求。例えば富や権力……そういった誘惑に、負けてはならない。

そういったものに負けず国と民を守る意志を誰よりも強く持った者が次代の辺境伯だった。そして自分が選んだのはケイト。愛娘・ケイトリンだった。それなのにあの馬鹿国王がケイトを第二王子の婚約者に寄越せ、と再三に渡り断ったのに横槍を入れて来た。自分が学生の頃羽目を外してしょっちゅう学園をサボっていてその勉強を教えて無事に卒業させてやった借りを返せ、と言われなければ跳ね除けたのに。あの時この借りは必ず返す、なんて言ってしまった事を後悔しつつ渋々婚約を受け入れた。


ーーその結果がケイトの死、などと誰が思うか!


全速力で王都の城へ向かいケイトの遺体がある場所を聞き出し控えの間に赴けばちょうど国王に楯突いている男がいた。


「どうしてですか。どうしてケイティは愛してもいない男を庇ったのですか。ケイティはヴィジェスト殿下に初対面で愛する恋人がいると言われていたけど王家からの婚約だからどうにもならないと言っていたのに……陛下、どうしてケイティを婚約者になどしたんですか……」


娘をケイティと呼ぶこの男は一体? と思いつつも娘を此処まで想ってくれる男に感謝すればケイティの父君、と呟く。愛称について訊ねれば男は率直に答えた。そうか。ケイティが望んだのか。ならば君はケイトリンの愛した男なのだな。そして君もケイトを愛してくれていた。その答えはケイトが託した物を持っていた所からも窺える。彼は名乗った後ケイトの葬儀が決まったら教えてくれ、と話してこの場を出て行った。

娘が選んだ男ならば娘を幸せにしてくれるはずだったのだろう。それよりも先ずはケイトの死因だ。本当になんで死んでしまった。国王を問い詰めればナイフに毒が塗られていたと聞いた。毒か……。それは想定外だった……。自分は……王家へ嫁ぐという事の大変さを何も理解していなかった。すまん、ケイト……。後悔しながらもおそらくケイトの死を招いただろう物を国王に見せた。


「セイスルート辺境伯。それは?」


国王から下問され自分はクルスから渡されたペンダントについて話し出した。


「これは生前ケイトが婚約者であるヴィジェスト殿下の住まいを王妃殿下に訪ねるように言われて訪ねようとした矢先に見つけたようで。ヴィジェスト殿下の住まいである王子宮の手前でコレが落ちていた、と。拾った娘は落とし主に渡そうと考えたが落とした相手の顔は見ていない。ただこの国ではあまり見ることがない()()()()()()の女性だったようでその後ろ姿が見えた、と。ところでヴィジェスト殿下の周りにはプラチナの髪の女性が居るようですね」


滔々と話す自分は娘を殺された憎い思いを隠しながらヴィジェスト殿下の()()()()()()()()()()()()をジッと見た。騒動の一部始終は知っているがそれでも我がセイスルート家が了承していない婚約破棄なのでケイトは……我が娘は未だヴィジェスト殿下の婚約者であるというのにその娘はなんなのか、という目を向ける。第二王子は自分のその視線に居心地悪そうに腕の中の娘と距離を取った。その娘は、と言えばペンダントを見て青い顔をしている。やはりこの娘の物か、と判断して火種を放り込んでやる事にした。


「このロケットペンダントを娘が拾う時のアクシデントで中を見たそうですが。何故か隣国のある人物の紋章と同じだった、と我がセイスルート辺境伯家の部下達から報告を受けたのですが」


娘の顔色は益々真っ青に変貌した。

セイスルート辺境伯は国王陛下を敬っていないですが、国王陛下はまともです。そして国王だけあって冷徹なところもある。セイスルート辺境伯以外は国王陛下をきちんと敬ってます。

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