2度目。ーー婚約者候補者達とのバトルII・15(ドナンテル&ノクシオ編)
それにしても……中々に屑ですね。お茶を溢しただけで令嬢の人生を狂わせた男。おそらくは何にも思っていないのでしょうから、そんな行動が取れたのでしょうが。
「あなたを産んだ事をコッネリ公爵に気付かれた?」
「そうよ。正妻様以外の女性で1度でも関係を持った相手については、その後を調べているみたいなの。自分の子だと分かった途端に誘拐するように引き離すのよ。私もそうして連れて来られた。誘拐なんて訴えられないけどね。だって父親なんですもの。しかも公爵家。逆らえないわ」
皮肉に満ちた顔でプライアリ様が話を続けていく。
「正妻は何も言わないの?」
「典型的な政略よ。傾いた家に金をやって連れて来られた方ですもの」
「つまり言い方は悪いけど借金の肩代わりをした家の令嬢?」
プライアリ様がコクリと頷いた。……コッネリ公爵って大切な人っていないのかしら。
「側室も全部そんな感じよ」
吐き捨てるプライアリ様。
「公爵が大事なのは自分自身ということかしらね」
私は肩を竦めて、少し考える。それから彼女をジッと見つめた。
「何?」
「プライアリ様。これから先、どんな結果が待ち受けようとも、やり遂げますか?」
「……もちろんよ。私の母は私と引き離されて悲しみに溺れて儚くなった、と母の父……祖父から手紙をもらったわ」
それは……随分と酷い。本当に1人の人生を狂わせてしまった。きっとコッネリ公爵は他にもそうやって他人の人生を狂わせて来たのだろう。罪悪感を覚えているのか、それとも何も感じないのか。それは知らないし、解りたいとも思わないけれど。
もう、他人の人生を狂わせ続けるコッネリ公爵の存在を、私は見過ごせない。
「プライアリ様に手伝ってもらう事が有るかどうかは分かりませんが、いいでしょう。あなたの望み、お引き受けします。……私を選んだ理由があるのでしょう?」
「コッネリが言っていたのよ。辛うじて此方が2回勝利したが、セイスルートは油断ならない、と。独り言だったと思うけれど。だからあなたなら、あなた様のお父様にお願いして、何とかしてくれると思って。他人頼みなのは理解しているわ。自力で何とか出来るような相手なら、私がこの手で母の仇を討ちたい。だけどっ」
「それが出来る程、コッネリ公爵は油断も隙もないってこと、ね?」
「ええそうよ。お願いよ! あなたのお父様に縋らせて欲しいの! なんとしても、母の仇を!」
「……分かったわ。あの男を何とか失脚させましょう。請け負うわ」
必死なプライアリ様の頼みに、私は強く頷く。仮にコレがコッネリ公爵の意向を汲んだ手駒としての彼女の役割だとしても(プライアリ様を無条件で信じられる程、私は彼女を知らないから)構わない。彼女の必死の表情に、少なくても嘘は見えない。演技だとしたら大したものだけど、それで結果騙されたとしても構わないくらいには、真剣に見えるから。
彼女が手駒でコッネリ公爵の芝居通りのセリフを言っていようと、本心から蹴落としたいと願って話していると、私は信じよう。それくらい真剣な彼女に敬意を払って受け入れる。




