2度目。ーー婚約者候補者達とのバトルII・14(ドナンテル&ノクシオ編)
コッネリ公爵の5女だと言うプライアリ様の話を警戒心を緩めずに聞く。
「セイスルート様は味方、ですのね。それは父が喜びますわ。セイスルート辺境伯様のことを父は時折話してくれていましたのよ? 旧知の仲だそうですわね」
当たり障りの無い話なのに、声音に含まれる嫌悪感。嫌悪感? これはもしや。
「コッネリ公爵令嬢様。ありがとう存じます。我が父はコッネリ公爵様には色々とお気遣い頂いた事が有ったようで過去2回、公爵様にお目にかかった際には、あまりのことに2回とも言葉を呑み込んだそうですわ」
あまりのこと、という表現だけだと何もおかしくない。あまりのことに感激して涙を流した、かもしれないし。あまりのことに怒りで身体を震わせた、かもしれない。だから続く言葉を消して言葉を呑み込んだ、とだけ言えばプライアリ様はチラリと私の目に視線を合わせてきた。私の気持ちを読み取るように。それはもちろん、私にも言えること。彼女の真意を読み取るようにその視線を受け止めた。
「あまりのこと、ですの」
「ええ」
「もう少し、お話をさせて頂いても?」
「もちろん構いませんわ」
プライアリ様の誘いを受けて食堂から出る。学園の中庭は中の殺伐とした空気とは裏腹に様々な花が咲き誇っていて、心が和む。彼女が足を止めるまで黙ってついて行き……此方を振り返ったところで、私は足を止めた。
「父が監視を付けている事はご存知?」
「そうでしょうね。我が父が煮湯を飲まされた、と悔しがるような方ですからね」
率直な問いに答えれば、満足そうに頷いて彼女は声を潜めた。
「父を蹴落とす気はございます?」
……あなたも、ですか。コッネリ公爵。姪や娘にまで嫌われているって何をやらかしたんですか。プライアリ様の発言に多少遠い目になっているだろう私は悪くない。身内に嫌われるなんて余程のことがあったとしか思えない。
「娘である方の言葉とは思えませんわね」
否定はしないけど肯定もしない私に、否定されないことが重要だと言わんばかりににこやかに笑む。……どうやら本当に何かをやらかしたのか、彼女はコッネリ公爵を嫌っているようだ。だが私は敢えて何も突っ込まない。彼女の目的が何であるのか、私はまだ知らないのだから。
「私ね。正妻様の娘ではないの」
プライアリ様が切り出す。黙ったままの私に堰き止められていた川が勢いよく流れ出すように、彼女は怒りを込めて説明する。
「私はコッネリに復讐したいのよ。あの男、礼儀見習いとして公爵家の侍女に来ていた母に手を出した。一目惚れどころか気紛れですらないわ。ただ、公爵家の庇護下にある男爵家の令嬢として生まれた母に婚約者がいた事が許せなかったから、よ。それもコッネリにお茶を運んできた母が、侍女仕事に慣れていない時で、自分の執務室の机にお茶を少し溢したことが気に入らなくて。たったそれだけのことで、婚約者といずれは結婚して家庭を築くことが許せなかった。
だから母を手ごめにして、婚約を破棄させた。貴族の令嬢だもの。たとえ男に無理やり乱暴されたとしても、他の男と通じた令嬢が結婚なんて出来やしない。母は泣く泣く婚約者と別れて……でも側室なんてなりたくなくて。実家でひっそりと私を出産して、未婚の娘が子どもを産んだことに後ろ指さされながら生きてきた。
私は母の人生を狂わせて、その上私や他の子達を手駒にしか考えていない、あの人間の屑を失脚させたいの」
成る程。プライアリ様は、かなり鬱憤が溜まっていたようです。こういう自分以外は大切にしない人間は、どんな目に遭わされても仕方ないのでしょうね。




