2度目。ーー婚約者候補者達とのバトルII・4(ドナンテル&ノクシオ編)
「ラスピリア様、後はコッネリ公爵のご家族についてお伺いしたいのですが」
私はその辺の方が気になります。ですが、ラスピリア様は「あー」と言った後に気まずそうに彼方此方へ視線を向けてから大きく溜め息を吐き出した。
「正直に言う方がいいよね。正直に言うなら分からない」
「……は?」
ラスピリア様が困惑を滲ませて言うので、首を傾げました。
「分からないんだ。伯父の正妻はもちろん知っている。正妻の間に生まれたのが2人の娘であることも。だから正妻とその娘2人の名前と年齢と顔は解る。ただ、野心家だからなのか、愛妾が多くてね。それも入れ替わりも激しい。私の父が把握しているのは、おそらく1番長く付き合いのある2人。1人は男女1人ずつ子がいて、伯父の子だろう。もう1人は男の子1人だけ。これも伯父の子だが、男女の子がいる愛妾は、正妻である伯母と結婚する前からの付き合いらしい。だから子どもも正妻の2人の娘より年上。もう1人の長い愛妾は、伯母と結婚して数年後からの付き合いのようだね。後は10年くらいの人もいれば、3年くらいの人もいるらしい。果ては1年も経たずに捨てた愛妾とかもいるから、正直把握しきれていない。伯父本人くらいじゃないかな、全ての愛妾と子どもの事を知っているのは」
わぁ……。
随分とお盛んですわね、コッネリ公爵。醜聞にならないのは、貴族男性が愛妾を作るのは“男の甲斐性”という世の風潮があるせいでしょう。要するに家族だけでなく他の女性も養えるということは、稼ぎがある証ですからね。
女性の方もそんな夫の正妻である事は、自らが金持ちに嫁いだ事を示せるので、夫の愛妾にとやかく言わないとか。愛妾になれた事を自慢に思うとか。そんな噂を耳にしています。
でも。
夫を愛しているとしたら正妻は相当辛いでしょうね。貴族って大抵恋愛結婚なんて無理ですからね。夫婦になってから恋愛出来ればいいですけど、情が生まれても親愛と信頼で結ばれるだけの関係だと男性は婚外恋愛をして、その結果愛妾として迎え入れますからね。これで妻の方は夫を男性として愛していたら悲惨ですよね。愛妾を受け入れるのが正妻としての余裕だという風潮が有りますから。夫を男性として愛していないなら、結婚して子を産んだ後なら、女性も愛人を作る事は認められていますけどね。
いっそのことその方がもしかしたら、夫婦共に幸せかもしれないですね。
おっと一般論に自分の考えを付けてしまってましたが、そうじゃなかった。コッネリ公爵の件です。コッネリ公爵、いくら愛妾を作るのが甲斐性だという風潮といえども、多過ぎません? 正妻さん、何とも思ってないのかしら。というか、結婚前から愛妾がいるって、それは浮気では?
結婚したら愛妾を作るのは男の甲斐性でも、結婚前に愛妾がいるのは浮気として、あまり好意的には見られません。何が違うのって話ですけどね。結婚しているかしてないかで、こんなに考えが変わるのもおかしなものですけどね。
「コッネリ公爵は……何というか色々規格外だな」
話を聞いていた殿下方とボレノー様がややドン引きです。世の風潮をご存知のお三方でさえ、ドン引きするほどのぶっ飛び具合。当然私もドン引きです。
「伯父は異常なのかもしれない、とは思います」
ラスピリア様も乾いた笑みで応えられました。こうなると……コッネリ公爵の“娘”を警戒しようが無いですねぇ。私としては、殿下方の婚約者としてコッネリ公爵の娘を据えに来ると思っていましたので、名前や年齢や性格等を伺えれば……と思いましたが、それ以前の問題でした。
一体どの娘さんを警戒すれば良いのか。
なんて、そんな事態になるとは思わないじゃないですか。コッネリ公爵の“娘”として名乗れるのは、当然正妻の子2人と、正妻が認めた愛妾の子だけです。それ以外はコッネリ公爵の“娘”として認められない。認められないからと言って、婚約者候補として宛てがって来ないとも限らないですからね。だからこそ、愛妾がいるとは思ってましたから、其方の方の子について尋ねたのですが、またもや予想を上回ってきましたよ、あの公爵は!
確か正妻の子を婚約者候補者として宛てがう前に、正妻の子は退けたはずですけど。でも、おそらく愛妾はいるだろうから、正妻の子を退けるだけじゃ足りないと思って愛妾の子について尋ねたんですよ。それなのにってやつです。……なんて傍迷惑な。
さて、どうしましょうか。




