2度目。ーー婚約者候補者達とのバトルII・1(ドナンテル&ノクシオ編)
さて。本日はちょっとだけラスピリア様の強かさにムカムカしたあの日から10日が経過したところです。場所は前回殿下方とボレノー様と話し合ったのと同じ。そこにラスピリア様が加わった形です。全員揃うまで、私は課題に取り組むつもりで教科書とノートもどき(前世で言うとノートよりもスケッチブックに近い)を広げて、前世で言う経済に関する問題点を指摘して、改善点を考える、というものに取り組み始めていました。
うーん? 問題点は簡単に言えば、職にあぶれた職人が居るということです。というのも、例えば宝石職人(宝石を加工する人)が居たとします。宝石の原石が産出する量と職人の数が全く合わない。どう見ても職人が非常に多い。つまりあぶれているわけです。あぶれた職人が居るということは仕事にならない。仕事にならないから賃金が得られない。賃金が得られないから生活が立ち行かない。生活が立ち行かないから結果的に職人達は貧民に陥って、貧富の差が広がる。
こんな感じなんですよね、ザックリ言うと。教科書からそんな問題点を読み取ったのですが、これの改善点をあげろ、ですか。宝石職人だとしたら鉱山から原石を更に発掘するのが良いでしょうが、そんなに原石が発掘出来るのかも分かりません。まぁ此処はそこまで見通しを立てる必要は無いのかもしれないですが……。
宝石職人だけじゃなく、例えば紙職人。例えば商人。例えば……どんな職業でも置き換えられるとした上で、それに見合う改善点を出す。簡単なようで難しいですが、要するに需要と供給の釣り合いが取れていないということ。王都のみで流通しているのなら、国内全般に流通させるように流通経路を確保して。国内全般に流通しているならば国外に流通出来るように、国交がある処と契約を交わして流通出来るようにする。
ああ、そうか。
流通経路を確保するには、道も整備するといいし、王家お声掛かりにする……前世で言う公共事業になれば、あぶれた職人も一時的とはいえ公共事業に携わる気概……なんだっていいから仕事したい、という考えに変われば、賃金ももらえる。賃金がもらえれば貧民生活から多少なりと抜け出せるだろうし。
そんなことをノートもどきにメモ書きして、それを改めて清書しようと色々思い付きを書いていた。
「セイスルート嬢、お待たせしました」
急に声をかけられて驚き隣を見れば、ボレノー様が横に座っていた。
「あら、ボレノー様。気付かずに失礼しました」
「いや。……それは経済の課題の?」
教科書とノートもどきを見てボレノー様が尋ねてきます。私は頷きました。前世と違って、課題を片付けるのに誰かの手を借りることは禁じられていません。要するに宿題の丸写しをやっても問題無しなんです。尤も丸写しがバレれば評価は下がりますけど。という事で、私はボレノー様に課題についての助言を求めようと、メモ書きしたものを見せながら話をしていく。
「面白いですね」
私の改善点に、ボレノー様が目を光らせたような気がしました。何か面白いことがありました? 私が首を傾げてボレノー様を見ると、ボレノー様は苦笑した。
「面白い発想だな、と。普通、どんなことでも領主に委ねられるでしょう。職人があぶれたら宝石職人ならば原石が取れる鉱山を持つ領主が対応しますし、紙職人ならば紙を特産品として扱う領主が。細工物職人ならば……と、領主が対応するのに、セイスルート嬢は一領主にやらせるのではなく、王家を引っ張り出して国の一大事業にして、民を助けるという発想をされた。そんな視点でものを考えるなんて、とても面白い発想だと言えますよ」
そういうことか。確かに今まで何十年どころか何百年もそれぞれの領主に任されているのが当たり前だったことだから、国を関わらせるという発想はしなかったのだろう。そんな考えすら浮かばないに違いない。
それだけ、長い間習慣になっていた事なのだから、そこから考えると確かに私の発想は、面白いものだったかもしれない。




