記念話。ーーある日の1度目のドミトラルとケイトリン(前)
お読み頂きましてありがとうございます。
前編はケイトリン視点。
後編はドミトラル視点でお送りします。
何度目かのドミーとのお喋りタイム。自然に足取りが軽くなるのは仕方ないのです。……だって、本日の午前中の王子妃教育は、苦手な政治の話だったんですよ。周辺諸国の政と我が国の政の差。周辺諸国にあって我が国には無い政。逆に我が国にあって周辺諸国には無い政などなど。頭がパンクしそうでした。でも、第二とはいえ王子妃になるわけですから大事ですよね。ーーたとえ、お飾り王子妃でも。
お飾り……ですよねぇ。ヴィジェスト殿下とロズベル様のラブラブっぷりは、これ見よがしですもんね。イルヴィル様が黒いオーラ出して苦々しく見ていたのは、数日前のことです。あまり怒る事が無いシュレンお義姉様も怒っていらっしゃいましたからね……。お2人が怒ってくれるから、私は惨めな気持ちにならなくて済みます。
国王陛下と王妃様は、お2人の事をどう思っているのでしょうか。王妃様からヴィジェスト殿下に注意は促したとお聞きしたのは、いつのことだったか……。まぁ国王陛下も王妃様もお忙しい身。私と話し合う時間を割くのも大変でしょうからね。幸いと言うのか、私の中にはとっくにヴィジェスト殿下に対する淡い恋心など消えています。ゴミ箱にポイってしましたよ。いくら私が気に入らなくても、仮にも婚約者なのにここまで蔑ろにされてはねぇ。
恋心など消え去りますよね。
まぁドミーに出会って日本人だった時の記憶が蘇ったから余計ってことも有りますけど。日本人だった時の記憶からいくと、こっちを振り向きもしない男に時間を割くのは、こちらも無駄な事だと思えています。思い出してなかったら絶対クヨクヨ……してないですね。私、辺境伯の娘でした。メンタル強くないとやっていけない領地で育ってましたね。
「ケイト」
「あ、ドミー」
「なにボンヤリして、何処行くつもりだったんだ? 俺に会いに来たんじゃないのか?」
おおぅ。どうやら考えながら歩いていたらドミーと約束していた場所を通り過ぎる所だったようです。危ない危ない。
「ごめんなさい。考え事してた」
「気をつけろよ。足元疎かにするとすっ転ぶぞ」
「ドミー、オジサンみたい」
「俺は立派なオジサンだ」
まだ25歳でしょ⁉︎ 25歳はオジサンではないよ⁉︎
「精神年齢いくつだと思ってる」
私の表情を読んだように肩を竦めたドミーは、気分を変えるようにほら、と私にちょっと固めの丸まった紙を渡してくれる。
「あ、ありがとう! じゃあお金払うね!」
ドミーが描いてくれたゲームスチルってヤツですよ、コレ。乙女ゲームは興味無かったんですけど、やっとけば良かったかな、と思わなくもない。でも、どういうシチュエーションなのか、ドミーの解説付きなので、まぁいっか。
さて、今日のスチルはどんなのかなぁ。
私がウキウキして広げようとする前に、ドミーが「待った」と止めてきた。なんで。
「それ、ゲームスチルじゃないから。気に入らなかったら捨てていい」
「えー。捨てるなんて勿体ない事しないよ。大体ゲームを知らないんだもん。ゲームスチルじゃなくても構わないよ。それに、これは前世とか関係なしで、ドミーの絵は国王陛下が囲いたくなるくらい写実的で、そして暖かいから。見ているこっちが温もりを感じるから、いいよ」
私が真剣に言い募れば、わかったと頷いて引き下がるドミーに構わず、その絵を見ようと広げて……
息を、呑んだ。
それは。絶対に有り得ない。有ってはならない絵だった。
私とドミーが2人仲良く肩寄せ合って、今、居るこの場から景色を眺めている絵。
私には婚約者がいて。それは第二王子で。蔑ろにされていても。第二王子に恋人がいても。私は、こんな風に他の誰かと……違う。好き、な、人と寄り添う事なんて許されないのに。それでも。
ーーそれでも愚かな私は、この絵を嬉しいと思ってしまったんだ。
クリスマスらしくない話ですが、まぁこの2人の1度目はこんな感じだったので。
まだ悲劇の引き鉄になるロズベルのロケットペンダント発見前なので、2人はお互いの唯一の呼び方「ケイティ」と「トラル」では無いです。




