2度目。ーーどうやら会わせてはいけない人同士だったようです。・2
「「ケイトリン、どういう事だ」」
あらぁ、ドナンテル殿下とノクシオ殿下に詰め寄られてしまいました。ちょっと近いですよ。淑女に対して有るまじき近さです。いくら私を淑女と見做していなくても失礼な距離なんですけどね。見兼ねた侍女さんと護衛さんで咳払いをして、殿下方を促してくれました。ありがとうございます。
「隠していたわけではないですよ。ただ知られないようにはしていましたけど」
ヘラリと笑いました。実際、1度目でも2度目の今でも、気付いたのはこの侍女さんのみ。他の誰にも……それこそ、1度目では親しくお付き合いさせて頂いたイルヴィル殿下とシュレン様すら気付かれなかったです。
「セイスルート様は上手く隠しておいでですよ。同じ侍女でも他の者では気付かない程だと思われます」
「そう。良かった。同情や憐みなんてもらいたくなかったから」
私達がやり取りしていると、相変わらず短気なドナンテル殿下が「そうじゃない!」と横槍を入れて来ました。
「利き手は右ではないの?」
穏やかながら、誤魔化しは許さないとばかりにノクシオ殿下が突っ込んで来ます。
「ええ。左ですね。でも左が利き手というのは隠せ、とお父様から命じられました。理由はお聞き下さいますな」
「じゃあ右手人差し指の件は」
「それも当たっています。幼い頃、とある理由で人差し指を傷つけましてね。それが影響しているらしくて、人差し指に力を込めると上手く動かないんです。これでもだいぶ動くようになったのですが。刺繍針を持つのに神経を使うし、それなりに力も入る所為か余計に人差し指が動き難いんです」
「なんで黙ってた!」
ドナンテル殿下が悔しそうに顔を歪めます。なんでですか。何も悔しい事なんてないでしょうに。
「知られたくないから黙ってました」
「だから何故」
「知っていたら先程のように笑わずに、憐んだでしょう? 同情なんてされたくなかったんです。人差し指が動き難いから刺繍が出来ないなんて同情心集めるつもりは無いですし。どんな理由があれ、私は刺繍もレース編みも苦手。ただそれだけのことですよ」
静かに話す私に、ドナンテル殿下もノクシオ殿下も顔を歪めて、今にも泣き出しそうに見えました。ヤレヤレ。同情するな、と言ったのに、刺繍もレース編みも苦手な私を笑って良いと言ったのに、そんな自分達を許せない、とばかりに泣きそうなのは反則ではないですかね。
私はドナンテル殿下の側に近寄り、項垂れている頭を撫でます。ドナンテル殿下が視線を私に合わせたので気にしてない、と理解してもらうために笑います。ドナンテル殿下が呆然としている間に、ノクシオ殿下の側に近寄り、こちらも頭を撫でました。こちらはドナンテル殿下以上に項垂れているように見えて、そんなに項垂れる事でもないと思うんですけどね……と首を捻りつつ。ノクシオ殿下も呆然としていましたけど、クシャリと更に顔を歪ませて本当に泣く寸前でした。
……あなた方、こんなに幼子のようでしたっけ?
取り敢えず、同情するな、と言ったのに同情して来た2人をこれ以上は見ていられなかったので、私は早めに殿下方の前を辞去して教室に戻る事にしました。……私が殿下と共に戻って来なかった事に教室内に居たクラスメートから視線を浴びました。そんなに注目しなくても良くないですか?
ちょっとだけ不満を抱えつつ、強い視線にそちらへ目を向ければ、ボレノー様とバッチリ目が合いました。そろそろ話し合いが必要ですか?




