2度目。ーーどうやら会わせてはいけない人同士だったようです。・1
2年目の学園生活が始まり、10日余り。1年目は基礎の振り返りだったから楽だと思っていた授業も、2年目になり、本格化されて来て予習復習無しではキツくなりました。そのおかげで、中々ボレノー様ともラピスリア様とも殿下方とも深い話は出来ず仕舞い。ちなみに、相変わらず昼食を殿下方と摂る羽目になっていますが、昼食後は勉強なので、話は殆どしていません。
こう言ってはなんですが、意外にもノクシオ殿下とドナンテル殿下が出来るので2人がかりで教わっている事が有ります。いえね。こちらの世界の勉強で算数は前世の小学校程度なので教わる必要も無いんですけど。生国と違って、淑女科でもないのに男女問わず刺繍の課題があるんですよ。信じられませんよね? で。殿下方は意外な器用さで私に刺繍を教えてくれているんです。驚きですよ。
「しかし、ケイトリンにも苦手な物が有ったんだな」
ドナンテル殿下が私の危なっかしい針運びを見ながら、しみじみとされる。
「本当。淑女の嗜みと言われる刺繍が苦手とは」
苦笑するノクシオ殿下。
「レース編みも苦手ですね」
私が言えば、2人は驚いてから腹を抱えて笑っています。笑いたきゃ笑えばいいんです。だって苦手な物は苦手なんですから。努力はしましたけれど、努力が実らない事もありますよね。だからこうした課題という形で出される以外では、自分から手を出すのは1年に1回です。
私自身の誕生日には、自分用に刺繍したハンカチを作りますし、自分用にレース編みでドレスのレースを作ります。レースはまぁ結局、ドレスに見劣りしてしまいますけど、毎年制作して取っておきますよ。成長過程を見るのは大事ですからね。どれだけ黒歴史でも。
「失礼ながら、セイスルート様」
いつもの侍女さんから声を掛けられて、私は手を止めました。
「なんでしょう?」
「僭越ながら私めがお教え致しましても宜しいでしょうか」
「えっ⁉︎ 宜しいんですか⁉︎」
城の侍女と言えば、どの国でも手先は器用のはずです。それこそ、私のように刺繍等が苦手な王女や妃の代わりに制作する事も有るそうですし。お茶を淹れるとか、視線一つで主人が何を欲しているかとか、それだけではなく。もちろんメイドだった頃から掃除や洗濯も経験しているでしょうが、仕える主人のために衣服を整えるとか、室内を整えるとか、様々な事を経験したスペシャリストですよ。
しかも、城中で行われるパーティー等にも関わるし、文官や武官とも関わりますからね。顔と名前を覚えるのも仕事ですし、護身術くらいは覚えていなくては、いざと言う時主人を守れません。何気にスーパーレディーってやつなんですよ、侍女って。そんな方に教えてもらえるなら、上達しそうじゃないですか⁉︎
「セイスルート様が嫌でなければ」
「とんでもない! 城の侍女と言えば、何でも出来る努力の積み重ねで勝ち取った素晴らしい方ですもの! お願いします!」
「セイスルート様にそのように仰って頂けますと、大変光栄でございます。では、僭越ながらお教え致します」
「宜しくお願いします」
私が頭を下げれば、彼女は笑って、こちらこそと頭を下げてくれた。出会った頃は敵視されているというか、観察されていたからね。随分と気安くなりましたよね。
「それに、殿下方では分からないでしょうから」
「「俺(私)達では分からない? ケイトリンに教えているのは、俺(私)達だぞ」」
あら、ドナンテル殿下もノクシオ殿下も仲良くハモってますね。
「そういう事ではございません。出過ぎた事を申し上げてしまい、お怒りになられたとは思いますが、殿下方ではお気付きになられていない、という事でございます」
謝りながらも、はっきりと意見を言う所が、2人の殿下に仕える所以なのでしょうかね。
「「何がだ」」
あらまぁ、またまたですね。仲良しです。
「失礼ながら、セイスルート様は利き手が違うご様子。右の手を動かしていらっしゃいますが、本来は左の手を動かす方が正しいのでは? それともう一つ。セイスルート様……右の手の人差し指は動き難いとお見受けしますが」
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これだから目端の利く侍女って、侮れないですよね。知っているのは家族とウチの古参の使用人とデボラくらいなものなのに。
前回のケイトリンの人生で、ドミトラル様にも話していないんですよ?




