1度目。ーー婚約破棄と隣国の思惑見える婚約交換の話。
「おやおや。ヴィジェスト殿下はセイスルート辺境伯令嬢とご婚約を致しておりましたか? いやはや知らぬ事とはいえご令嬢には済まない事をした。どうだろう? 代わりと言うのも申し訳ないが我が国の第一王子であらせられるドナンテル王子殿下とのご婚約は? 私の方からドナンテル殿下に進言致しましょう」
その言葉で私は嵌められた事を知った。隣国のドナンテル殿下と言えば側妃の方のお子であらせられるから王太子の位には就かれない。それを不服として密かに第二王子で王太子殿下を亡き者にしよう、と噂のある莫迦王子じゃありませんか! そんなのの婚約者なんて嫌でもお家騒動に巻き込まれるじゃないの! もしかして隣国で武器が集められているって我が国との戦争ではなく隣国内での内乱という事ですの⁉︎ そして我が辺境伯家は隣国との境にあるから何かの折には手助けなり亡命先にさせようって魂胆ですかっ!
「遠慮致します」
って私が断ったのに
「おお! 良かったな! ドナンテル殿下との婚約か! めでたい!」
ってよりにもよって莫迦王子もといヴィジェスト殿下がそんな事を言いやがった。私が今断った言葉を無かった事にしやがったな、この莫迦王子っ! 失礼。言葉が乱れました。私は国王陛下をチラリと見る。
「ヴィジェスト。お前が勝手に婚約破棄を申し出た事さえ許されないのだ。隣国の第一王子殿下との婚約をセイスルート辺境伯に何も言わずに受け入れる事は無い」
「父上、何を。辺境伯家など我が王家に逆らえるわけが」
国王陛下は私の視線の意味を理解してドナンテル殿下との婚約は保留としてくれたが、莫迦は全く解ってないな。
「お前はこんな大勢の前で自分の莫迦さ加減を知らしめたいのか。いいか? 辺境伯家は我が王家に忠誠を誓っておらん。あくまでも国と民そのものに忠誠を誓っている。つまりセイスルート辺境伯の心一つで我が王家に危機が起きても手助けもされない。だからこそセイスルート辺境伯の意思を無視するこの婚約を受け入れるわけにはいかない」
「は? そ、そんな事初めて聞きましたが」
いやいやいや。ヴィジェスト殿下が聞いて無かっただけでしょ。我が国の歴史で必ず語られているはずですよ。周りの貴族を見れば当たり前の表情でしょうが。勉強不足ですって晒している事態に早く気付きなさい。
「国王陛下のお言葉通り私は父に命じられていない以上その婚約は受け入れられませんわ」
改めてお断りしてやればコッネリ公爵が眼光を鋭くさせて会場にチラリと視線を向けた。その視線に何か危険を覚えた私は視線の向いた方に目をやって気付く。使用人の格好をした女性があまりの早さでこちらに駆け寄って来るのを。その先にはちょうど一番近いヴィジェスト殿下がいらっしゃる。その手にあるのは反射する何かーー。
「危ない!」
私は王子妃教育の教えに忠実になってしまったらしい。王子に危険が訪れた時、場合によっては妃自らがその盾となって王子を守るように教えられた通り、光るナイフが王子の胸を狙っているところへ割り込んで。ヴィジェスト殿下の代わりに私の身体にそのナイフが呑みこまれていく。
……お父様、ごめんなさい。
国と民に忠誠を誓う辺境伯家の者が王家の人間を守ってしまいましたわ〜。しかも血が出るだけじゃなくてやけに身体が痺れる。毒でも塗られていたのかしら。
ああなんだって痛いのに、そうよ痛いのに、こんな冷静に色々考えられるのかしらね……。そして嫌でも解るわ。死ぬわ私。
ーードミトラル様。ドミー。トラル。貴方を最期に見たかった。そしてごめんなさい。何も説明出来ずに死んでしまう事を許して。
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