2度目。ーーようやく学園生活2年目のスタートです。隣国だけどね。
章が変わりましたが、年齢は変わりません。学園生活2年目開始です。
長期休暇終了2日前。私は学園生活2年目を送るために再び隣国の地に足を踏み入れた。……何でだろう。1年が過ぎ去ったくらい濃密な休みだった気がする。だからなのか、こちらの国に足を踏み入れて懐かしい、とさえ思ってしまった。寮にはもう入れるから荷物を置いて、相変わらず着いてきてくれたデボラにお茶を入れてもらい、のんびりとしていた。
そういえば、結局私は何を忘れていたのかしら。
野外訓練終了したあの日に、何かを忘れている気持ちになっていたけれど、どれだけ確かめても分からなかった。
学園から出された課題は終わっていて、取り零しは無い。淑女科ではないから、手芸物の提出物もない。(淑女科だと刺繍を提出が必須なんだよね。絶対合格点なんかもらえないわ、私)他の提出物は全て持って来て提出出来る自信がある。
でも、どうしても忘れている気持ちになって落ち着かない。……こういう場合は、振り返るのが必要ね。
「デボラ」
「何か」
「私、何か忘れている気がするのよ。この長期休暇を振り返るから、聞いてもらっていていい? それで、私が忘れている事があったら口を挟んで欲しいのよ」
「かしこまりました」
そんなわけで振り返りましょう。先ずは、直近から思い出していきましょうか。
「ええと。課題の取り零しが無いかチェックして、学園で必要な物を準備して……。荷造りしながら、ようやくのんびりと本を読んでいたわね。その前は、3日とはいえ、お母様とお姉様と一緒に野外訓練をしていて。……お姉様がだいぶ変わったわね」
「左様でございますね。だいぶ変わられました」
私がしみじみと呟けば、デボラも深く強く頷く。それだけお姉様の態度は目に余ったということか。
「それから、デボラにとっては半分血の繋がりが有ったアウドラ男爵家の騒動。……デボラ、大丈夫?」
「今更聞かれます? まぁ大丈夫ですよ。アウドラ男爵が実父と言えど、奥様と結婚する前に母と恋仲になっておいて、奥様と結婚するからと、私と母を捨てたくせに、私を引き取って手駒にしてセイスルート家の諜報員として送り込むような、そんな男なんてどうでもいいし。バートンもシュゼットもミュゼットも、私を家族だなんて思っていなかったんですから」
「そう」
苦笑しつつ、今が幸せだと口にするデボラ。私はそれ以上尋ねる事はしないで、更に記憶を遡る。
「ええと。その前がヴィジェスト殿下のお茶会で。エルネン伯爵と令嬢とのあれやこれやは、大変だったわね……」
思い出して遠い目になっている気がするわ。考えてみれば、物凄く濃い長期休暇だったわね。だから疲れたのよ。こんなに色々あったのが全て長期休暇の短い期間とか、私、どれだけ働いたのかしら。
「まぁお嬢様は、仮とは言え、ヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者の座についたわけですし」
「そうねぇ……。でも、あれはナイゼルヌ侯爵令嬢が苦手な殿下の頼みと、その立場を利用してロズベル……様って、あああ!」
「なんですか、お嬢様! 突然声を上げて! 淑女にあるまじき言動ですよ!」
「ごめんなさいっ」
私は、思い出した! と叫んだわけだけど、途端にデボラに叱られ、反射的に謝る。というか、デボラ、本当に遠慮しなくなったわね。ってそうじゃない。
「思い出した。何か忘れているって思ってたはずよ。私、あのお茶会で、ロズベル様に関する噂が有れば聞いてほしいって、情報収集を頼まれていたんだったわ! ヴィジェスト殿下から」
はー。失敗した。ナイゼルヌ侯爵令嬢やエルネン伯爵令嬢とのアレコレですっかり忘れてた。しかも1度目のケイトリンの記憶も思い出してバタバタしていたし。はー。
「あらあら。お嬢様は、あれもこれもと引き受けるからそうなるんですよ。まぁでも、ロズベル様については、寧ろこちらの国の学園にいるらしい情報が有りますし、こちらで調べてみたらどうですか」
私が凹んでいる所を追い討ちかけて、それでもデボラがそんな風にアドバイスをくれた。
まぁそうね。こちらの学園にいるらしいって話だものね。気持ちを切り替えて情報収集してみるしかないわね。全て、濃密過ぎたお茶会が悪いのよ! だから忘れちゃっただけよ! と、誰に聞かせる事もなく責任をお茶会に押し付けつつ、私はデボラのアドバイスを受け入れた。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




