2度目。ーーセイスルート家のこれからに、私も入りたいです。
野外訓練が終了し、お父様に報告を終え、お母様とお姉様の顔付きが変わった事で、お父様も理解したように深く頷いた。
「ケイトリン。ご苦労だった」
「……いいえ。これで少しはセイスルート家も変わりますかね」
「ああ、そうだな。これからのセイスルート家に希望がもてそうだ」
お父様が珍しく口元を緩めて、そんな事を言う。機嫌が良さそうで私も少し肩の荷が降りた。そして、セイスルート家のこれからに思いを馳せると共に言葉を溢していた。
「今度は、セイスルート家のこれからに私も仲間入りしていたいです」
「……ああ。お前が死ぬのは寿命を迎えてだ。自分が保証してやる」
お父様が力強く頷く。そして当たり前のように私が歳を取るまで生きる事を、私がセイスルート家の未来に存在しているのだ、ということを宣言してくれた。
「お父様」
「コッネリは確かに知恵が回る。だがな、一つだけ弱点がある」
「弱点、ですか?」
あの自信家でお父様に煮湯を飲ませるような策士が?
「コッネリは自分を過信し、他人を信じない。それこそ家族もな。あの男はそういう人間だ。信用する相手が居ないのは裏切られなくて良いかもしれんが……それだけだ。自分の力でどうにもならない時が来たら、誰も助けはないだろうよ」
お父様の言葉に私は目を瞬かせた。他人を信じない。自分以外は全て他人。その考え方は……多分、そうなるような経験が有ったと推察出来る。けれど、背景を察しても同情はしない。自分以外を切り捨てる事にしたのは、コッネリ公爵なのだから。
同時にお父様の発言に納得いく。確かにどれだけ頭が良くて策を弄しても、自分以外は信用出来ないならば、きっと自滅するだろう。とはいえ、警戒はしておくに越したことはないけどね。
セイスルート家が良い方に変わる事を願いつつも、今日は精神的に疲れたので休む事にした。明日からは隣国へ戻るために荷造りをしなくては……。課題は終わっているけれど、見落としが無いか確認もした方が良いし……。
そういえば。私、何か忘れている気がしてならないのよね。課題を何か忘れているのかしら? ああでも、そういったことを考える事すら今の私は疲れてしまってダメね。さっさと休んで明日考える事にしよう。デボラが夕食の時間は遅くしてくれると言っていた。その間に、野外訓練の汚れを落としたいと思う。ツラツラと考えつつ自室に入れば、デボラが澄ました顔をしながら両手の指を動かしている。所謂手ぐすねを引くってこういう状態なのかしら。
「デボラ、ただいま」
「お帰りなさいませ、お嬢様。さぁさぁお風呂を沸かしていますから、綺麗に致しましょうね!」
高位貴族もそうだと思うけれど、ウチも類に漏れず、私専用のお風呂がある。当然お父様もお母様もお兄様もお姉様もロイスも。そんなわけで私は、既に湯を張って待っていたデボラに服を剥かれるようにして、浴室へとポイと入れられた。
「お嬢様。お疲れ様でした」
「ありがとう」
薔薇の花びらが浮かんだ湯舟を横目に見ながら身体を洗って汚れを落とし、湯舟に身を沈めれば、デボラがすかさず髪の毛を洗い出す。丁寧に丁寧に洗い、何度も何度もお湯を流し、頭皮マッサージまで施されて、私はようやくホッとした。
風呂から上がり、デボラが待ってましたとばかりに全身マッサージを施し、髪や身体にオイルを塗りたくって、珍しく私は“ご令嬢”に仕上げられていた。……普段はマッサージまででオイルは付けなくて良いって断っていたが、今日は何が何でもオイルを塗ると宣言されたので、偶にはそれも良いか、と私が折れる事にした。サッパリしてスベスベの肌は、気分も上がって機嫌が良くなる。夕食を摂ったら気持ち良く眠れそうだ、とついつい鼻歌を歌っていた。途端に「淑女らしく有りません!」とデボラに叱責されてしまったけれど。
この夜の私の夢には、1度目のケイトリンの人生で最期まで私を彩ってくれたドミトラル様が出て来てくれました。夢の中だけでも貴方に逢えるなんて、本当に嬉しいです。




