2度目。ーー野外訓練3日目。立つ鳥跡を濁さずって諺を教えましょうか?
疲れ切ったであろう2人だけど、だからといって甘やかすわけにはいかないので、きちんと焚き火の番兼見張りをしてもらって太陽が昇った現在。3日目、最終日です。お母様とお姉様に現在の心境を聞く。それが私の本来の任務と言いましょうか。
私達もそうだったんですけど、命の重みを自分の中で処理を終えた後でその心境を聞かれ、思ったままを口にするのではなく、思った事のその先の考えまでを口にする。
私の場合は、「命を奪ったからこそ、命を守るために辺境領にこの身を捧げます」と宣言しました。1度目のケイトリンでは出来なかった体験を経ての私の決意。……懐かしいですね。2度目の人生を歩んでいたので、自分の命の重さも自分なりに理解していた上での発言だったせいか、私とロイスの心境を聞いたお兄様が驚いた表情をしていたのも良い思い出です。
1度目とだいぶ違うケイトリンの人生は、1度目の私はかなり視野が狭かったなぁ……とつくづく思います。あの頃の私は王家とセイスルート家を繋ぐのが私の使命、的な考えに囚われていましたけど。セイスルート家は寧ろ私が辛いなら帰って来いって感じの家でした。そういう事に気付けないのだから、まぁ視野が狭かったですよね。
……ああ、私の心境はここまでにしておきましょう。今はお母様とお姉様です。
「野外訓練はどうでしたか」
「私は……本当に偏った子育てをしていましたね。いいえ、子育てと言えたのかどうか。キャスベルが可哀想だと思うあまり、ルベイオ・ケイトリン・ロイスばかりかキャスベルそのものも見えていなかった」
私が問えばお母様がポツリポツリと気持ちを吐き出す。反省はこれまでもされていましたからね。まぁそれは良いです。問題はその先ですね。
「では、どうされますか」
「そうね。先ずはキャスベルと距離を置くわ。介入し過ぎず、キャスベルを信頼して見守る事にします。キャスベルからすれば冷たく見える対応かもしれないわね。そしてケイトリン達からすれば、少しだけ私とあなた達の距離が近づけば良いと思います。それが母である私の決意。また今まで妻として、セイスルート辺境伯家の者として、その務めを果たしていなかった事を反省して、領地に目を向ける事にするわ」
お母様の顔が随分と晴れやかになりました。修道院に……と言っていた時は、思い詰めたような顔付きでしたからね。吹っ切れた部分があるのでしょう。さて次はお姉様です。……って、未だあなたはグズグズしているんですか。
起きたら帰りますから、準備をして下さいね。と言ってからどれだけ時間がかかってるんですかね。なんでまだ帰る準備が終わってないんですか。今までどれだけ泣いていたんです。立つ鳥跡を濁さずって諺を身をもって教え込みたい……。荷物なんて少量なのに何故荷物がまとめられていないんですかね。溜息を一つついた私は、取り敢えずお姉様の心境を聞く事にします。
「お姉様はどうでしたか」
「始めは……簡単だと思ってた。3日くらい、直ぐに終わると思っていたし。ケイトリンが出来たなら私に出来ないわけないって思った」
ポツリポツリと溢しながら、また涙を零す。私はそれに対して何も言わず、お姉様の声に耳を傾けた。
「でも、思った以上に大変だし、ケイトリンは全然私を助けなくてイライラしたし。だけど、獣を倒す時に思った。こんな状況で姉だから、とか、病弱だから、とか、そんなの言ってられない。生きるか死ぬか、そんな時に我が儘を言っていられない。私を優先して、なんてそんなばかばかしい事は出来ない。……命を守るって大変な事だって知った」
グスグスグスグス鼻をすすりながら、お姉様が本音をこぼしていく。
「私……勉強をして知らない事を知る努力をして、学園を卒業したら、自分の世界を広げようと思う。それから、此処に戻ってきて、私が出来る何かで辺境領と領民を守りたい」
ようやく、お姉様は変われそうです。ーーこの気持ちを忘れないでいてくれれば、ですけどね。取り敢えずは、目的は果たせたでしょうか。2人の人生観が変わったと思います。
では、セイスルート家へ帰りましょうか。




