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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
学園生活2年目は婚約者候補者とのガチバトル⁉︎
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2度目。ーー野外訓練2.5日目。気を抜くと痛い目に遭います。

「倒したのね!」


ドサリと倒れ込む獣に対してお姉様が、現金に叫ぶが私は注意深く様子を見る。そして……


獣は最後の力を振り絞るように頭を起こして前にいるお姉様に噛みつこうとしていた。その直前に私は、獣の横っ腹を蹴り飛ばした。吹っ飛んで樹齢何百年とかレベルだろう樹木の幹にぶつかって、そのままずり落ちた。様子を見れば、痙攣すら無くなっていた。近付けばようやく息絶えていたので、お母様とお姉様の元に戻る。


お姉様は顔色が真っ青だ。先程の満面の笑みで現金に叫んでいた元気は全くない。


「い、今のは」


やっと事態を飲み込んだのか、ブルブルと震えてお姉様が尋ねてくる。


「人間だろうが獣だろうが死にたくないでしょう。死の間際というのは、力を振り絞って襲いかかって来る獣もいるんです。だから完全に息絶えるまでは、気を抜いてはいけないんですよ。……どうです、お姉様」


「な、何が」


「過酷でしょう。辺境領は。病弱だから、と甘えまくって勉強もせず、自らを守るために鍛える事もせず、我儘ばかりでは生きて行けないでしょう。バートンはそれが解っていたからこそ、お姉様の甘ったれた性格や考えに嫌気が差したし、自ら望んで鉱夫の道を進んだんです。お姉様に同情されるくらいならって事でしょうね。そんなバートンがお姉様を好きなわけがないでしょう。彼はやり方は間違っていましたが、この辺境領の守りを統一する気概は有りましたからね」


私の静かに諭すような声音に何かを感じたのか、死んだ獣を見て、命を奪う事の重大さに気付いたのか。


お姉様は吐瀉した後、ボロボロと涙を零した。


「私っ……わたしっ、な、なんにも分かってなかった!」


「そうですね」


「ごめんなさいぃ」


誰に向けての謝罪なのか私は敢えて突っ込まず、あの死骸をどうするか考えていたら、狼の親子が現れた。


……もしかして、私の頼みを聞いて、あの獣をこちらに追い立てた⁉︎


私は唖然としつつ、礼をすると言った手前、何をやろうと考えたが、親子は私を見た後、死んだ獣をズルズルと口に咥えて引きずって行った。

えっ。礼をしていない……!

と思ったが、ふと思い出した。干し肉をあげた事を。もしやあれが彼等の礼になったのだろうか。先に礼をもらったから、動いてくれた?


確かめようがないが、人語を理解したらしい狼の親子に心の中でありがとう、と告げて私は頭を下げた。それからまだ泣き続けているお姉様をチラリと見てから、深呼吸してお父様に合図を送る。


鏡を太陽の光に当てて反射させるという簡単な合図だが、同じように合図が返って来たので、予定通り明日には野外訓練終了になる。


「お母様、お姉様。命を奪う事も守る事もどれだけ大変か理解出来たと思います。良く頑張りましたね、お疲れ様でした。夕飯の食糧を集めてきますから休んでいて下さい。今夜を無事に超えたら明日は野外訓練終了です」


お姉様は未だ泣き続けているから聞こえたかどうかは分からない。だけど、お母様はしっかりと頷いたので、お姉様を慰めるのはお母様に任せて私は食糧集めにその場を離れた。


命を奪う事も守る事も途方も無く重い。その重みをきちんと味わって自分の中で処理してくれれば、お姉様の人生観は変わるだろう。明日、帰ったら私は少し休んで、隣国へ戻る準備をしなくてはならない。


ここもまた次の長期休暇を迎えないと来ないだろうな。

狼の親子よ、どうかまた会える時まで無事で。

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